熟年離婚とお金について押さえておきましょう

【熟年離婚】第3回 熟年離婚と慰謝料

今回は,離婚に関する問題としてよく耳にする「慰謝料」に焦点を当て,見ていきましょう。
熟年離婚の場合,通常の離婚に比べて,慰謝料額が高くなる可能性がありますので,注意が必要です。

慰謝料とは?

慰謝料とは,精神的な損害に対する賠償です。
法律上は,「・・・損害賠償の責任を負う者は,財産以外の損害に対しても,その賠償をしなければならない」と定められています(民法710条)。

離婚の場合の慰謝料は,

  1. 離婚することそのもの(離婚によって,妻・夫としての地位を失うこと)によって生じる精神的苦痛に対する賠償

  1. 離婚の原因となった浮気などの不法行為(有責な行為)によって生じる精神的苦痛に対する賠償

の二つの性質に分けて考えることができます。

もっとも,実務上は,この二つを常に明確に区別して考えているわけではありません。
「相手のせいで離婚に追いやられた」と考える側が,数百万円の慰謝料を請求するというケースが一般的です。

慰謝料の判断要素は?

当事者間の交渉で慰謝料の金額が決まらない場合,最終的に,争いを裁判所に持ち込んで,慰謝料の発生根拠があるか,発生根拠があるとして,慰謝料の金額はいくらが妥当なのかを判断してもらうことになります。

財産的な損害(例えば,交通事故でけがをして入通院し,仕事を休まざるを得なくなった場合に,治療費や仕事を休まなければもらえていたであろう給料分を賠償請求するケースが,典型的な財産的損害です。)であれば,その損害額は比較的算定しやすいといえます。

これに対し,精神的苦痛に対する賠償の場合,どのように損害額を算定するかは非常に難しい問題です。
精神的な苦痛がどの程度かは,苦痛を感じる人ごとに違いますから,それを他人がどのように評価するか,また,どのように金銭換算するかといった問題があるのです。
実際のところ,慰謝料額の判断は,事案に応じてケースバイケースであり,すべての事案に通用する確立された判断基準があるわけではありません。

離婚に伴う慰謝料の場合も同様に,事案ごとに様々な事情を考慮して判断されていますが,裁判例では,

  1. 有責行為の態様や程度
  2. 婚姻期間の長さや当事者の年齢
  3. 相手方(有責行為をした側)の経済状況や社会的地位

などが考慮され,慰謝料金額が算定されています。

こうして,様々な事情を考慮して算定される離婚の慰謝料ですが,裁判になった場合には,概ね100~300万円の範囲に落ち着くケースが多いようです。

熟年離婚は慰謝料が高くなる?

すでにお話ししたように,離婚の場合の慰謝料は,大体100~300万円程度になることが多いのですが,熟年離婚の場合はどうでしょうか。

先ほどお話しした判断材料のうち,(1)有責行為の態様や程度(例えば,妻・夫の一方が浮気をしていたというケースでは,浮気の期間や浮気相手と会っていた回数,浮気の具体的な態様など)についていえば,熟年離婚の場合とそうでない離婚の場合とで,明確に差が出ることはあまりありません。

しかし,(2)婚姻期間の長さや当事者の年齢,(3)相手方の経済状況や社会的地位は,熟年離婚の場合とそうでない場合とで,かなり差が出てきます。

(2)婚姻期間の長さや当事者の年齢

一般に,婚姻期間が長く,また,年齢が高くなればなるほど,有責行為を受けた側の納得できない思いは大きく,次に気持ちを切り替えるということが難しくなりがちです。また,長年連れ添ってきた配偶者と別れた後に再スタートを切るということは,経済的にも相当な負担を強いられることになります。
そのため,婚姻期間が長いほど,また,年齢が高いほど,慰謝料の額は高くなる傾向にあります。

(3)相手方の経済状況や社会的地位

日本社会は,まだまだ年功序列制が色濃く残っています。そのため,一般に,年齢が高いほど,社会的地位や収入も高く,資力も大きくなりがちです。
これに伴い,慰謝料額も高くなる傾向にあります。

このように,熟年離婚の場合,(2)婚姻期間が長く,当事者の年齢が高いこと,また,(3)相手方の経済状況や社会的地位が高くなりがちであることから,他のケースと比べて,慰謝料の金額も高くなりやすいということがいえます。
そのため,300~500万円という慰謝料が認められるケースも少なくありません。

そこで,慰謝料を請求する側であれば,有責行為の態様・程度に関する立証はもちろんのこと,離婚後の生活や再スタートが厳しいという点,相手方の資力が大きいという点をしっかり主張・立証していくことが重要になります。

また,慰謝料を請求される側であれば,有責行為の証拠に対する反論はもちろんのこと,財産分与や年金などによって,離婚後の相手方の生活保障がケアされていることを主張していくことになります。

第4回に続く

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