婚姻費用を支払ってもらえない!生活費を確保するために払わせる方法を弁護士が解説

別居したら、相手に生活費として「婚姻費用」を請求できます。
しかし相手が支払いを拒否したり、請求を無視したりするケースも少なくありません。
公正証書や調停で婚姻費用を取り決めたにも関わらず支払わない人もいます。
そんなときにはどのようにして婚姻費用を払わせれば良いのでしょうか?

今回は婚姻費用を払ってもらえないときの対処方法をお伝えします。別居後に必要な生活費が足りずお困りの方はぜひ参考にしてみてください。

1.債務名義があるかないかで対応が異なる!

婚姻費用を支払わせる方法は債務名義がある場合とない場合で異なります。
債務名義とは、強制執行(差し押さえ)ができる文書です。
以下のようなものが債務名義となります。

  • 公正証書(強制執行認諾条項つき)
  • 調停調書
  • 審判書
  • 和解調書
  • 判決書

手元に債務名義があれば、すぐに相手の資産や給料を差し押さえられます。
一方、債務名義がなければ、まずは調停を申し立てて債務名義を取得しなければなりません。
以下でそれぞれの手順をみてみましょう。

2.債務名義がない場合の対処方法

手元に債務名義がない場合、まずは債務名義を取得しなければ差し押さえによる強制執行ができません。
婚姻費用の債務名義を獲得するための手続きは「婚姻費用分担調停」です。
まずは家庭裁判所で「婚姻費用分担調停」を申し立てて、話し合いによる解決を目指しましょう。調停が成立したら調停調書が交付され、これには差し押さえの効力が認められます。

相手が調停に出席しない場合や調停では合意できない場合には、調停は不成立になって「審判」に移行します。
審判になれば、裁判所が婚姻費用の支払い命令を出してくれます。

審判が下ると、しばらくして裁判所から審判書が郵送されてきます。審判書にも強制執行力があるので、相手が裁判所の命令に従わない場合には給料や預金などの差し押さえができます。

調停調書または審判書は債務名義です。入手したら、後は「債務名義がある場合」と同じ手続きになるので、以下で具体的な対処方法をみていきましょう。

3.債務名義がある場合の対処方法

強制執行認諾条項付きの公正証書や調停調書、審判書などの債務名義が手元にあるにもかかわらず相手が婚姻費用を払わないなら、以下のように対応しましょう。

3-1.履行勧告

まずは家庭裁判所へ履行勧告を申し立てる方法があります。
履行勧告とは、当事者が家庭裁判所の調停や審判で決まった事項を守らないときに、家庭裁判所が義務を履行するよう勧告する手続きです。

履行勧告の申出をすると、家庭裁判所が相手に「婚姻費用を払うように」と連絡してくれます。

ただし履行勧告には強制力がありません。相手が従わなくてもペナルティがないので、無視されると支払いを受けられない問題があります。

3-2.履行命令

履行命令とは家庭裁判所が義務を守らない当事者に対し、相当期間を定めて義務の履行(金銭の支払い)を命じてくれる手続きです。
履行命令にはペナルティがあり、正当な理由もないのに従わない場合には「10万円以下の過料」の制裁が加えられる可能性があります。
その意味で履行勧告よりも履行命令の方が、相手が従う可能性が高い手続きといえるでしょう。

ただし履行命令についても相手が無視するとそれ以上の対応はできません。過料を支払わせても申立人に生活費が入ってくるわけではないので、実効性に欠ける可能性もあります。

3-3.強制執行(差し押さえ)

履行勧告や履行命令をしても意味がない場合には、強制執行(差し押さえ)をしましょう。
強制執行とは、債務名義で確定した権利を裁判所が実現してくれる手続きです。
公正証書や調停調書、審判書などの債務名義があれば、履行勧告や履行命令の手続きを経ないでいきなり強制執行することもできます。

4.強制執行(差し押さえ)の手順

以下では婚姻費用が払われないときの強制執行の手順をみていきましょう。

4-1.必要書類を用意する

まずは必要書類を用意しなければなりません。どのような書類が必要か確認しましょう。

債務名義

債務名義が必要です。以下のような書類が該当します。

  • 判決正本
  • 和解調書の正本
  • 公正証書(強制執行認諾条項付き)の正本
  • 家事調停調書の正本
  • 家事審判書の正本

自分たちで婚姻費用の支払いを約束して作成した合意書は、債務名義になりません。
もしも手元に自分たちで作成した合意書しかなければ、まずは調停を申し立てて債務名義を取得する必要があります。

送達証明書

送達証明書は、債務名義が相手に送達された事実を証明する書類です。
判決や和解調書、調停調書や審判書などの場合にはそれぞれの書類を発行した裁判所、公正証書の場合には文書を作成してもらった公証役場へ申請しましょう。

執行文

債務名義にもとづいて差し押さえをするには、執行文が必要です。
執行文についても書類を発行した裁判所や公正証書へ申請しましょう。

確定証明書

審判書や判決書によって強制執行をする場合には、確定証明書を取り寄せなければなりません。判決や審判の出た裁判所へ申請して取得しましょう。

資格証明書

相手の給料を差し押さえたいケースで相手が会社に勤務している場合には、法人の資格証明書(登記事項証明書や代表者事項証明書)を取得する必要があります。預金の場合には銀行の資格証明書、保険の場合には保険会社の資格証明書、株の場合には証券会社の資格証明書が必要です。法務局へ申請して入手しましょう。

4-2.差し押さえの対象となるものを特定する

婚姻費用が払われないので差し押さえをしたい場合、債権者が差し押さえの対象を特定しなければなりません。具体的には以下のようなものが差し押さえ対象となります。

給料やボーナス

会社から支給される給料は、婚姻費用が払われないときの差し押さえ対象となります。月ごとの給料だけではなく、ボーナスも差し押さえが可能です。

給料は、婚姻費用が支払われないときの差し押さえ対象として非常に有用です。いったん給料を差し押さえると、未払い分が充足されるまで差し押さえることができるからです。ある程度未払いが蓄積していても、継続的に支払いを受ければ全額の支払いを受けられる可能性が高くなるでしょう。
また将来分の婚姻費用についても支払いを受けられるので、相手が会社を辞めるか離婚が成立するまで安定して婚姻費用を受け取れるメリットもあります。

給料差し押さえができる限度額

給料を差し押さえたときには、全額を取り立てることはできません。相手にも生活があるからです。原則的には「給料の手取り額の4分の1」が差し押さえ対象ですが、婚姻費用の場合には「手取り額の2分の1」まで差し押さえができます。この意味でも婚姻費用の未払いに対する差し押さえとしては給料が非常に有効といえるでしょう。

相手の手取り額が66万円を超える場合には、33万円を超える全額を差し押さえられます。

給与差押の注意点

給料を差し押さえるには、相手の勤務先を特定しなければなりません。どこで働いているかわからない状態では差し押さえができないのです。
相手の勤務先がわからない場合には、裁判所で「第三者からの情報取得手続き」という制度を利用できます。
この制度を利用すると、年金事務所の記録などから相手の勤務先を特定できる可能性があるので、困ったときには申立を検討しましょう。

また給料を差し押さえられるのは、相手が会社へ勤務している期間に限られます。退職されると給料やボーナスは差し押さえられなくなってしまいます。その場合、相手の転職先を調べてあらためて差し押さえの申立をしなければなりません。

給料の差し押さえをしたら、会社へ直接連絡を入れてその後の支払いについてのやり取りを行う必要があります。放置していても給料は支払われないので、早めに対応しましょう。
会社が支払いを拒否する場合には「取立訴訟」という訴訟を提起すると支払いを受けられるようになります。

預貯金

相手の預金も差し押さえができます。預金の場合、給料のように限度額はありません。
ただし預金差し押さえの対象となるのは、差し押さえをしたときの残高のみです。給与差押と異なり、将来にわたって継続的に支払いを受け続けることはできません。
また預金口座のある金融機関は債権者が特定しなければなりません。こちらについても第三者からの情報取得手続きによって調べられる可能性があるので、相手の口座が不明で困ったときには利用を検討しましょう。

保険

相手が解約返戻金つきの保険に加入している場合、保険も差し押さえができます。
以下のような保険であれば、差し押さえ対象となる可能性があります。

  • 生命保険
  • 学資保険
  • 火災保険

掛け捨ての保険は差し押さえができません。

保険を差し押さえる場合には、契約している保険会社を特定する必要があります。

株式、投資信託

相手が株式や投資信託などの資産を持っている場合、これらについても差し押さえが可能です。
取引している証券会社を特定し、差し押さえの申立をしましょう。

不動産

相手が不動産を所有している場合、不動産も差し押さえ対象となります。家を差し押さえると、相手に強いプレッシャーをかけられるので、任意に履行される可能性も高くなります。
ただし住宅ローンが設定されていて競売を実行しても債権者にお金が払われない可能性が高い場合、強制執行が認められません。
相手が住宅ローンなどの抵当権がついていない不動産を持っているなら、有効な対処方法になるでしょう。

相手の車も差し押さえ対象になります。ただし車は高く売れないケースも多く経費もかかるので、優先順位としては低いといえるでしょう。

その他の動産

貴金属や時計などの動産類も差し押さえが可能です。動産を差し押さえると、相手にプレッシャーをかける効果も期待できます。

ただし差し押さえの対象になる動産は限定されています。生活必需品や仕事に必須のものなどは差し押さえできないものが多いと考えましょう。

弁護士に強制執行を依頼するメリット

婚姻費用が支払われない場合の差し押さえの対処方法は複雑です。状況により、必要書類や注意点も変わってきます。たとえば給与差し押さえの場合、相手が警戒して退職してしまわないように早急かつ慎重に進める必要があります。
適切に判断をしてより確実に婚姻費用の支払いを受けるには、弁護士によるサポートが必須といえるでしょう。DUONでは離婚や別居の問題解決に熱心に取り組んでいますので、お困りの際にはお早めにご相談ください。

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