養育費滞納対策!民事執行法改正で取り立てが容易になる!

離婚時に養育費を支払ってもらう約束をしても、結局は支払いが止まってしまうケースが少なくありません。
そのようなときには権利者が相手の資産や勤務先を調べて「強制執行(差押え)」をする必要があります。

実は最近「民事執行法」が改正され、従来よりも強制執行が容易になりました。養育費を請求する側にとっては有利な状況です。

今回は「民事執行法」とはどういった法律で何が変わったのか、養育費を滞納されたときの対処方法について弁護士が解説します。

1.民事執行法とは

民事執行法とは、「強制執行」の手続きや要件について定める法律です。
強制執行とは、債務者が債務を実行しないときに債権者が債務者の財産や権利を強制的に換価して取り立てをする手続きです。
たとえばお金を借りた人が返さない場合、債権者は債務者の給料や預金を差し押さえて貸付金を回収できます。その際の「差押え」の方法を定めるのが民事執行法です。

養育費を滞納されたときにも「民事執行法」にもとづいて元配偶者の給料や預金等の資産を差し押さえられます。

2.民事執行法の改正内容

今般、民事執行法が大きく改正され2020年4月1日に施行されました。
今後養育費を滞納された場合には、改正後の民事執行法にもとづいて相手の資産を差し押さえ回収できます。
以下で改正理由や改正内容を説明します。

2-1.民事執行法が改正された理由

民事執行法が改正されたのは「債権者による強制執行を簡単にするため」です。
これまで、債権者が民事執行法にもとづいて債務者の財産を差し押さえるためには、債権者が「債務者の財産を詳しく特定」しなければなりませんでした。

たとえば預金を差し押さえる場合には「金融機関名と支店名」を明らかにしなければならず「どこの銀行の何支店と取引しているか分からないケース」では差押えができなかったのです。
給料の場合にも「どこの会社に勤めているか分からなければ差押えは不可能」でした。

現実に、別れた元パートナーの預金口座や勤務先を特定するのは容易ではないでしょう。このようにハードルが高かったため、多くの債権者が強制執行を諦めざるを得ない現状があったのです。

そこで今回民事執行法が改正され、債務者の財産内容や勤務先の特定が従来よりずいぶん容易になりました。
また債務者が財産開示手続きに協力しなかった場合のペナルティも強化されました。このことにより、財産開示手続きが従前に比べて効果的となり、債務者による財産隠しを防ぎやすくなっています。

2-2.第三者からの情報取得手続き

今回の民事執行法改正で新設された重要な制度として「第三者からの情報取得手続き」があります。銀行や市町村役場、年金事務所などの機関へ裁判所から「情報照会」を行い、債務者の財産や勤務先に関する情報を取得する制度です。

養育費を滞納されたとき、従来であれば債権者が相手の預金口座や勤務先を特定しなければなりませんでしたが、第三者からの情報取得手続きを利用すれば裁判所に調べてもらえます。
詳しい状況がわからなくても滞納された養育費の未払い分について差押えができる可能性が高まります。

第三者からの情報取得手続きを利用できる場合

第三者からの情報取得手続きを利用できるのは、以下の財産を差し押さえるケースです。

・預貯金

相手が取引している預金口座の詳細がわからなくても、金融機関へ照会して情報を入手できます。たとえば「支店名」「預金の種類」などが不明な場合に利用できます。
ただし「照会先の金融機関」は特定しなければなりません。「日本中のすべての金融機関へ情報照会する」のは不可能ですので、注意しましょう。有効なのは「金融機関がわかっているけれど支店が不明な場合」などです。

・不動産

相手が所有している不動産が不明な場合、法務局に情報照会をして詳細情報を入手できます。不動産情報が判明すれば「競売」を申し立てて不動産を強制的に売却し、養育費を回収できます。

・給料

相手が会社員の場合、給料を差し押さえるには勤務先の特定が必要です。第三者からの情報取得手続を利用すると市町村役場や年金事務所から勤務先に関する情報を入手できるので、給料差押えが容易になります。

・上場株式や投資信託、債券

相手が証券会社で上場株式や投資信託、債券などの財産を保有している場合、証券会社に照会してこれらの資産の詳細情報を入手できます。

以上に対し「保険会社」への紹介は認められていません。相手が生命保険に入っている場合の「解約返戻金」について、第三者からの情報取得手続きで詳細情報を入手するのは困難です。ただし今後の法改正で対象が拡大する可能性はあります。

2-3.財産開示に協力しない場合のペナルティの強化

民事執行法は「財産開示手続き」を定めています。
これは裁判所が債務者を呼び出し、保有する財産の状況について報告させる手続きです。
財産開示手続き自体は2003年に作られた制度であり、法改正前から存在していました。
ただ従来は債務者が財産開示に協力しなくても「30万円以下の過料」のペナルティしか適用されず、実効性に欠ける問題がありました。過料とは行政罰の1種であり、必ずしも適用されるとは限りませんし刑事罰でないので前科にもなりません。

そこで今回の民事執行法改正により、財産開示に協力しない場合の罰則が強化されて「6か月以下の懲役または50万円以上の罰金刑」とされました。
つまり財産開示手続きで債務者が嘘をついたり出頭を拒否したり黙秘したりすると、懲役刑が適用されて刑務所に行かねばならない可能性もあるのです。罰金刑となったとしても一生消えない「前科」がつきます。

このようにペナルティが強化されたことによって、今後は財産開示手続きが積極的に活用されやすくなるでしょう。相手の養育費滞納問題で困ったときにはぜひ検討してみてください。

2-4.公正証書でも「財産開示請求」が可能に

従来の民事執行法では「財産開示請求」をできるケースが限定されており、以下のような債務名義がある場合にしか申立ができませんでした。

  • 調停調書
  • 審判書
  • 判決書
  • 和解調書
  • 請求の認諾調書

以下の債務名義があっても財産開示手続きを利用できなかったのです。

  • 公正証書(強制執行認諾条項付き)
  • 仮執行宣言着きの判決
  • 支払督促

つまり離婚の際に相手と養育費の約束をして公正証書を作成しても、財産開示手続きを利用できなかったということです。

しかしそれでは債権者にとって不利益が大きくなるでしょう。そこで今回の法改正により、上記のような債務名義によっても財産開示手続きを利用できるようになりました。

今後は強制執行認諾条項付きの公正証書で養育費の約束をしていれば、裁判所で「財産開示請求」を行って相手に預貯金や勤務先などに関する情報を提供してもらえる可能性があります。

3.養育費を滞納されたときの強制執行の手順

もしも養育費を滞納されたら、以下の手順で対応を進めましょう。

3-1.債務名義があるかどうか確認

手元に公正証書や調停調書、判決書などの「債務名義」があるか確認しましょう。債務名義がないと差押えはできません。

3-2.債務名義がない場合には養育費調停を行う

債務名義がなかったら、家庭裁判所で「養育費調停」を申し立てましょう。調停を成立させれば「調停調書」を入手できますし、調停が不成立となっても審判によって「審判書」を入手できます。

3-3.ある場合には財産調査、特定をする

公正証書などの債務名義がある場合や養育費調停で債務名義を取得できたら、「財産開示手続き」や「第三者からの情報取得手続き」を使って相手の資産を特定します。なお相手の資産や勤務先が判明している場合、これらの手続きは不要です。

3-4.差押えの申立を行う

債務名義を使って相手の預貯金や給料などの差押えをします。

民事執行法の規定が改正されて養育費の取り立てが容易になりましたが、強制執行の手続きは複雑で一般の方には難しいと感じるでしょう。弁護士がサポートすればスムーズかつ確実に回収しやすくなります。茨城で養育費を滞納されてお困りの方は、お気軽にご相談ください。

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