専業主婦は親権者争いで不利になる?親権を獲得する5つのポイントを弁護士が解説
「私は専業主婦ですが、経済力がなくても親権をとれるのでしょうか?」
こういったご相談を受けるケースがよくあります。
専業主婦の方は、これまで主として育児を担ってきたケースが多いのですが「収入がないから子どもの養育や教育にお金をかけられないのでは?」と不安になるのです。
夫からも「お前には収入がないから子どもを任せられない」「子どものためにも親権を譲るように」と強く迫られるケースが多々あります。
しかし専業主婦でも親権をとれます。実際に専業主婦だった方が離婚して立派に子どもを育ててしっかり教育をつけている事例も多く、あきらめる必要はありません。
今回は専業主婦が親権争いで不利になる要素があるのか、親権者になるための5つのポイントを含めて弁護士が解説します。
1.専業主婦でも親権者になれる
結論からいうと、専業主婦でも親権者になれます。
フルタイムで働いている父親よりも、専業主婦の方が親権争いで有利になる場合も多数あります。
以下ではまず、親権とはどういった権利なのかを簡単に確認しましょう。
1-1.親権とは
親権とは、子どもと一緒に住んで養育監護を行い、子どもの財産を管理する権利です。
親権のうち養育監護を行う権利を「身上監護権」といい、居住場所や教育方法、アルバイトの許可、しつけなどの権利が含まれます。
親権にはもう一つの要素があり、財産管理を行う権利を「財産管理権」といいます。
子ども名義の預金を開設して管理したり、子どもが取得した財産を管理したり子どもの代理で契約行為をしたりできる権利です。
一般的には身上監護権と財産管理権を分離せず「親権者」が両方を取得します。
離婚後に親権者になれるのは父母の一方のみなので、離婚時には相手と話し合ってどちらが親権者になるのか決定しなければなりません。
1-2.親権と監護権を分離するケース
離婚時の話し合いにより、身上監護権と財産管理権を分けてそれぞれの親に帰属させることもできます。
身上監護権と財産管理権を分離する場合、財産管理権を「親権」といい、身上監護権については「監護権」とよびます。
財産管理権を取得した親権者が戸籍上の親権者になります。
親権と監護権を分けるケースで多くみられるのは、夫が親権を強く主張するため話し合いで親権者を決めにくい場合です。
夫を親権者(財産管理権者)として妻を監護権者とし、離婚後も妻が引き続いて子どもの監護を行っていくことで合意します。
この場合、妻は親権者になれませんが離婚後も引き続いて子どもと一緒に住み、養育監護を行えます。ただし子どもの預金や保険などの財産管理については元夫に手続きをしてもらう必要があります。
2.専業主婦は親権者争いで有利になりやすい
一般には専業主婦の場合、経済力がないので親権を獲得しにくいと考えられているケースがよくあります。
しかし裁判所は、親権者を判断するときに経済力をあまり重視していません。
むしろ「これまでの養育実績」や「子どもとの関係性」「離婚後に子どもと濃密に接触してコミュニケーションをとれるか」などの要素を重視する傾向があります。
専業主婦の場合、夫よりも積極的に育児にかかわっている方が多いので、親権者争いでは有利になりやすいといえます。
特に子どもが乳幼児の場合、裁判所は「基本的に母親を親権者とすべき」と判断する傾向が顕著です。子どもの年齢が0~3歳程度の場合、多くの事例で専業主婦が親権を獲得できると考えましょう。
夫から「経済力がなかったら親権者になれない」といわれても、鵜呑みにする必要はありません。
裁判所の司法統計(令和2年度)においても、離婚調停では約9割の事案で母親が親権を取得しています。
https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/257/012257.pdf
この中には専業主婦の方も多く含まれています。
あきらめずに親権を主張しましょう。
3.専業主婦が親権を獲得しにくいケース
専業主婦が親権を獲得しにくいケースもあるので、ご紹介します。
3-1.子どもを虐待、ネグレクトしていた
母親であっても、婚姻時に子どもを虐待していた場合や育児放棄してネグレクトしていた場合、親権者として不適格とみなされます。
子どもに暴力を振るう、暴言を履いて精神的に追い詰める、食事を与えないなどの事情があると、親権が認められにくくなると考えましょう。
3-2.子どもと離れて暮らしている
裁判所は、離婚時に子どもと同居している親に親権を認める傾向を持っています。
子どもが落ち着いて暮らしているにもかかわらず環境をコロコロ変えると、悪影響が及ぶと考えられるためです。
離婚前に夫と別居する際、子どもと離れてしまったら専業主婦や母親でも親権を獲得しにくくなります。別居するなら必ず子どもを連れて出るべきですし、相手が出ていくなら子どもを置いて1人で出ていってもらう必要があります。
3-3.子どもが父親を親権者として希望した
子どもが15歳を超えると、子ども自身が親権者を選べます。
子どもが父親を親権者として希望すれば、母親は親権を獲得できません。
15歳に満たなくても10歳くらいの年齢を超えると、子どもの意見がだんだんと尊重されるようになってきます。
一方、子どもが小学校低学年程度までの年齢の場合、子どもの言動はあまり評価されません。
たとえば5歳の子どもが「パパと一緒に暮らしたい」といっても、親権獲得で不利になるとは限りません。
3-4.親権者として不適格な事情がある
犯罪傾向があって刑務所に入っていた、実際に服役中、重病にかかっていて養育ができないなどの事情があると、親権者として適格でないと判断される可能性が高まります。
また不倫していただけでは親権争いで不利になるとは限りませんが、不倫相手にのめり込んで育児放棄したり、子どもと不倫相手を会わせて実の父親の悪口を吹き込んだりすると、親権者として不適格とみなされる可能性があります。
母親、専業主婦でもこういった「親権者として不適格な事情」があると、親権を獲得できなくなってしまいます。
4.いったん親権を譲ると後で取り戻すのは難しい
離婚時、夫が強く親権を主張すると「いったんは親権を相手に譲り、離婚後に変更してもらおう」と考える方もおられます。
しかし離婚後に親権者を変更するのは簡単ではありません。
そもそも話し合いでは親権者の変更ができず、「調停」や「審判」をしなければなりません。また親権者を変更すべき必要性が認められなければ変更は認められないのです。
離婚時に親権者を獲得するよりも、離婚後に親権者を変更する方がハードルは上がるので、親権者になりたいなら、離婚時にしっかり争って親権を獲得しておくべきです。
5.専業主婦が親権を獲得するための5つのポイント
離婚の際、専業主婦が親権を獲得するには以下のように対応しましょう。
5-1.これまでの養育監護に関する資料を集める
裁判所が親権者を判断するときには、これまでの養育実績を評価します。
専業主婦の方であれば、主に養育を担ってきたケースが多いでしょうから有利になるはずです。
しかし証明できなければ、養育実績が認められない可能性があるので親権を獲得したいなら、養育実績を示せる資料を集めましょう。
たとえば以下のようなものが有用です。
- 母子手帳
- 育児日記
- 幼稚園や保育園の連絡帳
- 小学校の先生とのやり取り
- 写真
5-2.子どもを監護する環境を用意する
専業主婦の方が親権を獲得するなら、離婚後にどのように生活していくのかプランを立てなければなりません。
就職するのか、実家に帰るのか賃貸住宅に住むのか、子どもをどこの学校に通わせるのかなど、具体的で実行可能な計画を立てましょう。
離婚して親権者となれば相手から養育費をもらえますが、養育費だけでは子どもとの生活に不足するケースも多数です。
低所得の場合には児童扶養手当などの行政給付も受けられるので、役所にも相談してみるようお勧めします。
5-3.子どもとの関係を良好にする
親権者になるには、子どもとの関係性を良好にしておく必要があります。
相手の悪口を吹き込むべきではありませんが、子どもが母親に愛着を持ってくれるように積極的にコミュニケーションをとって子どもの立場や悩みを理解し、親として信頼してもらえる行動をしましょう。
5-4.別居するとき、子どもと離れない
離婚前に夫と別居するなら、子どもと離れてはなりません。いったん別居してしまったら、後に取り戻すのは難しくなってしまいます。
家を出るなら必ず子どもを連れて出ましょう。専業主婦の方が離婚前に相手と別居したら、婚姻費用(妻の生活費と子どもの養育費の合算)を請求できるので、「お金がなくて子どもの生活を維持できないのでは?」という心配は要りません。
親権争いが発生すると、夫が子どもを連れてでていってしまうケースもあります。
不安を感じたら、早めに弁護士へ相談してみてください。
5-5.早めに弁護士へ相談する
専業主婦が親権を獲得するには裁判所の親権判断基準を知り、適切に行動しなければなりません。
夫との交渉、離婚調停、ときには離婚訴訟にも対応する必要があります。
お一人では適切に対処できず、不利になってしまう可能性が高まります。
親権を確実に取得するため早めに弁護士による助言やサポートを受けましょう。弁護士がつけば、相手も無理な連れ去りなどの行動を取れなくなり、調停や訴訟も有利に進めやすくなるものです。
DUONでは離婚と子どもの問題に積極的に取り組んでおり、これまで多数の親権トラブルを解決してまいりました。親権を取得したい専業主婦の方は、お早めにご相談ください。