離婚を考えるとき、養育費を「いくらにするか」「いつまで払うか」は避けて通れません。相手と話し合って決めるとしても、基準や相場が分からないまま合意してしまうと、後から金額や支払期間をめぐって揉めることがあります。また、口約束のままにしてしまい、「払われない」「連絡が取れない」といった不安が続くことも少なくありません。進学費用や高額な医療費など、通常の月額とは別に負担が生じる場面も想定しておく必要があります。
養育費は、子どもの生活や教育を支えるための費用です。親同士で自由に取り決められますが、合意が難しければ家庭裁判所の手続きで決めることもできます。どの方法を選ぶかで、準備すべき資料や、取り決めを残す形も変わってきます。
この記事では、養育費の決め方の流れ、金額を算定表で考える方法、支払期間の基本的な考え方、未払いが起きた場合の時効や対応までを解説します。
【養育費の決め方】まずは話し合い、まとまらなければ家庭裁判所へ
養育費は、離婚後に子どもと同居する親だけが負担するものではなく、子どもに対する扶養の一部として、父母双方が分担する費用です。そのため、「支払う側」「受け取る側」という感覚だけで決めるのではなく、子どもの生活を維持するために必要な金額と、父母の負担能力のバランスを踏まえて決めることが大切です。
決め方は大きく分けて、当事者の話し合いで決める方法と、家庭裁判所の手続きで決める方法があります。話し合いで合意できれば早期にまとまりやすい一方で、取り決めを残さないと後で争いになりやすいため、合意内容を明確にしておくことが欠かせません。
■当事者の話し合いで決める
当事者同士で話し合い、養育費の月額や支払期間を合意できれば、原則としてその内容で取り決めることができます。合意の場面では、金額だけでなく、支払いが続くための具体的な取り決めまで決めておきましょう。後から「聞いていない」「そんな約束はしていない」と言われないためにも、合意書として書面に残すことが重要です。
話し合いの段階で決めておきたい項目は、次のとおりです。
・養育費の月額(必要であれば、算定表の範囲も踏まえる)
・支払い期日(毎月何日までに支払うか)
・支払い方法(振込先口座、手数料の負担など)
・支払い期間(いつからいつまで支払うか、終期の書き方)
・進学費用や医療費など、月額とは別に負担が生じる費用の扱い
・収入の変動などがあったときに再度協議する場面と連絡方法
合意書のままでも請求の根拠にはなりますが、未払いに備えるなら、公正証書にしておくことが有効です。公正証書は公証人が作成する公文書で、強制執行を受けることをあらかじめ認める文言を入れておけば、支払いが滞ったときに、相手の給与や預貯金を差し押さえる手続きにつなげることができます。
■調停で決める
話し合いで合意ができない場合は、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てて、調停で決める方法があります。調停では、調停委員が間に入り、双方の言い分を聞きながら合意点を探していきます。感情的な対立が強い場合でも、第三者を介することで話が進むことがあります。
調停では、収入を示す資料(源泉徴収票や課税証明書、確定申告書など)を提出し、算定表を目安にしながら金額を決めることが一般的です。合意が成立すると調停調書が作成され、記載された内容は法的な効力を持ちます。合意したのに支払われない場合でも、調停調書をもとに手続きを進められる点が大きな違いです。
■審判・裁判で決める
調停でも合意できないときは、裁判所が判断して養育費を定める手続きに進みます。家庭裁判所が当事者の主張や資料を確認し、父母の収入や子どもの状況などを踏まえて金額や支払条件を決めます。決定には期限がある不服申立ての手続きもあるため、通知を受け取ったら放置しないことが重要です。
次に、養育費の金額をどのように決めるのか、算定表を使った考え方を確認していきます。
【養育費の金額の決め方】算定表を目安に月額を決める
養育費の金額は、父母の収入と子どもの人数・年齢によって大きく変わります。話し合いでも調停でも、根拠のない金額で合意すると不満が残りやすいため、まずは「どの程度が一般的な範囲なのか」を確認してから協議することが重要です。多くの場合は、裁判所が公表している養育費算定表を目安にして、月額の範囲を検討します。
■まずは算定表で「目安の範囲」を確認する
算定表は、支払う側と受け取る側の収入を縦横にあてはめ、子どもの人数や年齢区分に応じて、養育費のおおよその範囲を示したものです。まず、子どもの人数と年齢に合う表を選び、次に双方の年収の位置を確認して交点を見ます。交点には一定の幅が示されるため、その範囲の中で、子どもの生活状況や教育の方針などを踏まえて金額を決めていきます。
金額を決める際は、「いつからいつまでの月額か」も合わせて書き分けると分かりやすくなります。たとえば、学年が上がるタイミングで教育費が増えることが見込まれる場合は、一定の時期に再協議する旨を入れる方法もあります。
■基礎収入を把握するための資料
算定表で用いる年収は、手取り額ではなく、税金や社会保険料を控除する前の収入を基礎に考えます。給与所得者であれば源泉徴収票や課税証明書、直近の給与明細などが資料になります。自営業者やフリーランスの場合は確定申告書や決算書をもとに、収入の変動や実態も踏まえて判断します。収入が大きく変動しているときは、直近1年だけでなく複数年の資料を用意しておくと話が進みやすくなります。
相手が収入資料を出さない場合でも、調停では提出を促す働きかけが行われます。収入が把握できないまま金額を決めてしまうと、後から「本来の額と違う」という争いになりやすいため、できる限り根拠資料をそろえて進めることが大切です。
■算定表どおりにならないことが多い費用
算定表は目安として有用ですが、すべての事情を自動的に反映するわけではありません。たとえば、私立学校の学費や塾代、入学金のような一時的な費用、高額な医療費などは、月額の養育費に含めるか、別途分担するかで揉めやすいポイントです。そのため、「月額とは別に、入学金や授業料などの教育費は〇割で負担する」「医療費のうち保険適用外の費用は事前に協議してから精算する」など、負担方法を具体的に決めておくと安心です。
また、支払う側の年収が非常に高い場合や、子どもが多い場合などは、算定表だけで決めきれないことがあります。生活状況や必要性を踏まえて調整が必要になるため、早い段階で専門家に相談して見通しを立てることが有効です。
続いて、養育費の支払義務がいつまで続くのかという考え方を見ていきます。
【離婚による養育費をいつまで支払うのか】養育費の支払い義務がなくなる法的な原則
養育費とは、子どもが経済的に自立して生活できるようになるまでの間、親が負担する生活費のことです。衣食住の費用に加えて、教育費や医療費など、成長に欠かせない出費が含まれます。
法律上、養育費の支払義務が終了するのは子どもが「未成熟子」でなくなったときです。未成熟子とは、単に年齢だけで決まるものではなく、「経済的に自立して生活することが期待できるか」という観点で判断されます。
そのため、成人年齢(18歳)に達していても、学生であったり、病気で働けなかったりする場合には、未成熟子とみなされることも十分あり得ます。
多くの取り決めで見られる養育費「18歳まで」と「20歳まで」の根拠。成人年齢引き下げの影響は?
養育費の終期について、これまでは「20歳まで」と取り決められることが多くありました。離婚する時点では、子どもがまだ幼く、将来高校を卒業して就職するのか、大学に進学するのか予測できない場合がほとんどだからです。
そのため、公平性の観点から、かつての成人年齢であった「満20歳に達する月まで」を一つの区切りとすることが一般的でした。裁判所が審判や判決で決定する場合も、当事者から特別な主張がなければ、この基準が採用される傾向にありました。
ここで注意すべきなのが、2022年4月1日に成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことです。この法改正は、養育費の取り決めに以下のような影響を与えます。
- 法改正前に「成年に達するまで」と取り決めた場合:その合意における「成年」は20歳を指すと解釈されます。
- 法改正後に「成年に達するまで」と取り決める場合:これからの「成年」は18歳を指すことになります。
今後は、「18歳まで」が標準となるケースも増えていくでしょう。そのため、支払いの終期を曖昧にせず、「満22歳の3月まで(大学卒業を想定)」などと具体的に明記することが、トラブルを防ぐうえでも効果的です。
延長する必要があるケース(大学進学、病気など)
子どもが成人年齢に達していても、特別な事情がある場合には、養育費の支払期間が延長されることがあります。主なケースは、大学などへの進学、および病気や障害などによる自立困難などです。
■大学進学を理由とする場合
大学進学率が高まっている現在、大学在学中の子どもは経済的に自立しておらず、「未成熟子」として扱われることが多くなっています。このような場合、養育費の支払期間を「満22歳に達した後の最初の3月まで」など、大学卒業の一般的な時期まで延長することが可能です。
支払延長が認められるかどうかは、以下のような要素を踏まえて総合的に判断されます。
- 父母の収入、学歴、社会的地位
- 子どもの進学への希望や能力
離婚時に「20歳まで」と定めていた場合でも、後に大学進学が明らかになれば、家庭裁判所に支払期間の延長を求める調停を申し立てることが可能です。実際には、進学先や家庭の状況によって延長が認められるケースも多く存在します。
■子どもの病気や障害を理由とする場合
子どもに心身の障害や持病があり、成人しても就労によって自立した生活を送ることが困難な場合も、支払期間の延長が認められることがあります。この場合、成人年齢にこだわらず、子どもの生活状況や就労能力などを個別に検討して終期を決定することが一般的です。
未払いの養育費を請求する権利と「時効」の取り扱い
養育費が支払われていないとき、取り決めがあるのであれば法的に請求することができます。ただし、養育費には時効があり、一定の期間が経過すると請求が難しくなる場合があります。放置せず、早めに対応しておくことが非常に重要です。
養育費の時効期間は、どのような方法で取り決めが行われたかによって変わります。以下は主なケースとその時効です。
取り決めの内容 | 時効の年数 | 補足 |
口頭や書面での合意 | 5年 | 合意内容を証明できないと請求が難しくなることもある |
公正証書による合意 | 5年 | 強制執行は可能だが、時効は5年 |
調停・審判・判決 | 10年 | 法的に権利が確定するため10年の時効が適用される |
養育費の時効は、それぞれの支払期限の翌日からカウントが始まります。つまり、未払いの養育費は月ごとに個別に時効が進んでいく仕組みです。すべてが一括で時効になるわけではないので、過去の分の一部については、まだ請求できる可能性が残っている場合もあります。
ただし、時効が近づいていたり、すでにかなりの期間が経過していたりする場合でも、救済手段はあります。代表的なものは以下のとおりです。
■時効の進行を一時的に止める(完成猶予)
- 内容証明での催告:6か月間の猶予
- 調停や支払督促などの申立て:手続きが終わるまで猶予される
- 協議を行うという合意がある:最大1年の猶予
■時効期間をリセットする(更新)
- 調停や裁判で支払義務が確定した
- 強制執行を行った
- 支払う側が養育費の存在を認めた
これらの対応をとれば、今ある未払い分の時効を先延ばしにしたり、再び時効カウントを最初から始められたりします。
時効の進行を止めるためには、証拠が残る方法での対応が必要です。内容証明郵便や調停の申し立て、支払督促のように記録が残る手続きを行うことで、請求の正当性が裏付けられます。すでに支払われていない養育費があるなら、できるだけ早く行動を起こして、権利を失ってしまわないようにしましょう。
養育費の取り決めなし場合の養育費請求権の時効
離婚時に養育費の取り決めをしないまま別れた場合でも、後から請求することは可能です。養育費は、子どもが経済的に自立するまで親が負担すべき費用とされており、合意がなかったとしても、支払い義務は生じています。
なお、このようなケースでは、取り決めが行われていないため、養育費に関する「時効のカウント」はまだ始まっていません。つまり、子どもが未成熟子の状態にある限り、今からでも請求手続きを取ることができます。
ただし、注意が必要なのが、全ての期間の養育費が受け取れるわけではないということです。家庭裁判所は、原則として請求を行った時点から以降の分についてしか支払いを命じません。そのため、それ以前の分については、たとえ支払われていなかったとしても、遡っての請求が認められにくいのが現状です。
こうした事情をふまえると、養育費の請求はできるだけ早く行動に移すことが重要です。まずは相手に内容証明郵便で請求の意思を伝え、証拠を残しましょう。そのうえで、家庭裁判所に養育費請求の調停を申し立てることで、正式な支払い義務を認めてもらうことが可能です。一度取り決めが成立すれば、その後の養育費には、合意なら5年、調停や裁判なら10年の時効が適用されるようになります。
子どもが未成熟子である限り、養育費の請求をする権利そのものは消えていません。ただ、請求の遅れによって受け取れる金額が減ってしまうこともあるため、できる限り早く手続きを進めることが大切です。不安がある場合は、弁護士に相談して対応を検討することをおすすめします。
弁護士への相談のタイミングと必要性
養育費の金額や支払い期間は、家庭の事情によって大きく変わるため、当事者だけで判断するのが難しいこともあります。そんなときは、法律の専門家である弁護士に相談するのが有効です。
弁護士への相談を検討すべきタイミングは、次のような場合が考えられます。
- 離婚協議で、養育費の支払期間や金額について相手と合意できないとき
- 子どもの大学進学が決まり、一度決めた養育費の支払期間の延長を求めたいとき
- 自身の失業や相手の再婚・収入増など、事情の変更を理由に養育費の増額・減額を交渉したいとき
- 相手からの支払いが滞っており、強制執行などの法的手続きを検討しているとき
- 住宅ローンの支払いなど、他の条件と複雑に絡み合っており、適切な養育費の決め方が分からないとき
弁護士は、法的な見通しを示し、あなたの代理人として相手方と交渉したり、調停などの法的手続きを進めたりすることができます。ひとりで抱え込まず、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。
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