不妊を理由に離婚したい方へ
不妊が続くと夫婦関係が悪化して離婚を考え始める方が少なくありません。
不妊が原因でも離婚できる可能性がありますが、一方で離婚が認められないケースもあります。慰謝料が発生するかどうかもケースバイケースです。
今回は不妊を理由に離婚したい方が知っておきたい知識(離婚が認められる要件や慰謝料について)を弁護士がご紹介します。
不妊が原因で離婚したい方はぜひ、参考にしてみてください。
1.不妊で離婚したくなる理由
不妊が続くと夫婦関係が悪化するケースがよくありますが、具体的な事情はご夫婦によって異なります。よくあるのは以下のようなパターンです。
1-1.妊活や不妊治療がつらくて夫婦関係が不穏になる
結婚してもなかなか子どもができない場合、妊活や不妊治療を行うご夫婦が多いでしょう。
しかし不妊治療をすると、2人に大きな負担がのしかかります。
高額な費用もかかりますし、妻側の生活が制限されたりしょっちゅう注射を打たねばならなかったりして、ストレスも大きくなります。
いったん不妊治療を始めると「ここまでがんばったのだから今更やめられない」と追い詰められた気持ちになってしまう方も多数います。
お互いに常にイライラした状態が続いて、夫婦関係が悪化してしまいます。
1-2.一方に不妊の原因があると明らかになった
不妊治療をすると、夫婦どちらかに不妊の原因があると判明するケースがあります。
その場合、お互いに関係がぎくしゃくしてしまいがちです。
たとえば妻に不妊の原因があるとわかったら、妻は「申し訳ない」と感じて萎縮してしまうでしょう。夫の方も、妻を責められないとはわかっていながらも将来に絶望してしまい、どうして良いかわからなくなる可能性があります。
結果的に夫婦仲がうまくいかなくなり、離婚を考えはじめてしまいます。
1-3.「子どもができないなら離婚すべき」という価値観
そもそもの価値観として「子どもができないなら離婚すべき」と考えている方もおられます。
結婚しても長期にわたって子どもができないと、夫側が「妊娠できないなら離婚するしかない」と考えて、妻へ離婚を突きつけるケースが少なくありません。夫の実家がうるさく言ってきて夫婦仲が悪化してしまう事例もみられます。
2.不妊を理由に離婚できる2つのパターン
不妊が原因で夫婦仲が悪化した場合、離婚できるパターンには2種類があります。
2-1.協議離婚、調停離婚
1つは協議や調停で離婚する場合です。
協議離婚や調停離婚の場合、夫婦双方が「離婚すること」にさえ合意したら離婚できます。
理由はなんであってもかまいません。
不妊が原因で夫婦仲が悪化した場合でも、お互いが離婚に合意すれば協議離婚や調停離婚ができます。
ただし2人が離婚に納得しなければならないので、どちらか一方が離婚を拒否したら協議離婚、調停離婚はできません。
2-2.裁判離婚
2つ目は裁判離婚です。
裁判の判決で離婚を認めてもらうには、「法律上の離婚原因」が必要です。
不妊が理由であっても「法律上の離婚原因」があれば、裁判所が離婚判決を下してくれて離婚が成立します。
裁判離婚が認められる場合、夫婦お互いの合意は不要です。一方が離婚を拒否していても、法律上の離婚原因さえあれば離婚を認めてもらえます。
法律上の離婚原因
法律上の離婚原因は以下の5種類です。
- 相手の不貞(不倫)
- 悪意の遺棄(生活費不払いや家出、同居拒否など)
- 3年以上の生死不明
- 回復しがたい精神病
- その他婚姻関係を継続し難い重大な事由
上記いずれかに該当すれば、訴訟で離婚が認められます。
3.不妊が原因でも裁判離婚が認められる事情とは
不妊が原因で夫婦仲が不仲となったとき、裁判で離婚が認められるのは具体的にどういったケースなのでしょうか?
法律上の離婚原因にあてはめて検討しましょう。
3-1.相手が不貞行為をした
不妊状態が続くと夫婦関係が悪化して、一方(特に夫側)が不貞行為をしてしまうケースが少なくありません。不貞行為とは一般的に「不倫」をいいます。
不倫は法律上の離婚原因に数えられるので、夫が不倫をしたら妻は夫へ離婚を請求できます。
3-2.暴力を振るわれた、モラハラ被害を受けた
不妊状態が続いて夫婦仲が悪くなると、一方が他方へ暴力を振るい始めるケースもあります。身体的な暴力を振るわなくても、精神的な攻撃であるモラハラ行為をする可能性はあるでしょう。
暴力やモラハラがあると「その他婚姻関係を継続しがたい重大な事由」となり、法律上の離婚理由と評価されます。
被害者側は訴訟を起こして離婚できます。
3-3.相手が家出した
不妊が原因で夫婦関係が壊れてしまうと、一方が家出をしてしまうケースもあります。
たとえば一家の大黒柱である夫が家出して一切生活費を入れなくなったら、法律上の離婚原因である「悪意の遺棄」と評価されます。
この場合、妻は離婚訴訟を起こして離婚を請求できます。
3-4.長期間別居が続いた
不妊状態が続いて夫婦仲が悪化すると、お互いに同居生活を続けるのが苦しくなる場合も少なくありません。
別居して、そのまま別世帯で生活を続けるケースもあります。
長期に渡って別居状態が継続すると、「その他婚姻関係を継続し難い重大な事由」となって離婚が認められる可能性があります。
3-5.お互いに夫婦関係をやり直す気持ちがなくなった
不妊が原因でけんかが絶えない状態になると、お互いに「夫婦をやり直そう」という意思を失ってしまうケースが少なくありません。
夫婦関係が壊れて双方が修復へ向けた気持ちを失っていると「その他婚姻関係を継続し難い重大な事由」と評価されて離婚が認められる可能性があります。
3-6.セックスレスになった
不妊治療がつらくなると、セックスレスになってしまうご夫婦も少なくありません。
一方が正当な理由なく性交渉を拒否し続けていると、その他婚姻を継続しがたい重大な事情が認められて離婚原因と評価される可能性があります
4.不妊で離婚できないパターン
以下のような場合、不妊のみが理由では離婚できません。
- 法律上の離婚原因がなく、相手が離婚に応じてくれない
- 不妊がつらくて相手や自分が「うつ病」なった
- しょっちゅうけんかしているが、別居はしていないし暴力も振るわれておらず不倫もされていない
- 家庭内別居しているが、それ以外に法律上の離婚原因がない
ただし上記のような場合でも、状況によっては離婚できる可能性があるので、あきらめずに弁護士へ相談してみてください。
5.不妊で慰謝料請求できる?
不妊が理由で離婚する場合、慰謝料を請求できるのでしょうか?
請求できるケースとできないケースがあるので、それぞれご紹介します。
5-1.慰謝料請求できるケース
離婚の際に慰謝料請求できるのは、相手が「有責配偶者」の場合です。有責配偶者とは、婚姻関係の破綻に責任のある配偶者、という意味です。
具体的には以下のような場合、慰謝料請求できると考えましょう。
- 相手が不倫した
- 相手から暴力やモラハラの被害を受けた
- 相手が正当な理由なしに家出した、生活費を払ってくれなくなった
- 相手が正当な理由なしに性交渉を拒否した
訴訟で慰謝料が認められるには証拠が必要
訴訟で離婚や慰謝料を認めてもらうには「証拠」が必要です。
たとえば相手が不倫して異性と肉体関係を持っている証拠、日常的に暴力やモラハラ被害を受けている証拠を集めなければなりません。
単に主張するだけでは相手が否定する限り事実として認定されにくいので、注意しましょう。
訴訟を有利に進めるためには弁護士によるサポートが必要です。
不妊が原因で離婚できるのか、慰謝料請求が認められるのか知りたい方、訴訟を起こしたい方はお早めにご相談ください。
5-2.慰謝料請求できないケース
離婚するとしても以下のような場合には慰謝料が発生しません。
- 相手に不妊の原因があった
- 相手がうつ病になった
- 長期間別居して法律上の離婚理由が認められた
- お互いに夫婦関係をやり直す気持ちがなくなった
- 相手が妊活に非協力的だった
5-3.話し合いで離婚する場合の慰謝料や解決金
訴訟の判決で離婚する場合、相手が有責配偶者でなければ慰謝料を請求できません。
ただし協議や調停などの「話し合い」で離婚するなら、慰謝料の支払いについても柔軟に取り決めができます。
相手が有責配偶者でなくても「慰謝料」や「解決金」としてまとまった額の支払いを受けられる可能性があります。解決金とは、トラブルを解決するために支払うお金です。自分が悪くないのに「慰謝料」を払うのには抵抗を感じる方が多いので、協議や調停でお金を払う際には「解決金」の名目とするケースがよくあります。
たとえば妻が不妊なので夫の希望によって離婚する場合、夫が妻へまとまった解決金を渡して協議離婚するなどです。
また財産分与を多めにして調整する方法もあります。
たとえばどちらに不妊の原因があるかわからないけれど子どもができないのでやむなく離婚する場合、生活力の低い妻が多めに財産分与を受け取るなどの方法です。
夫の希望で離婚するケースにおいて、妻に納得してもらうために財産のほとんどを分与する場合もあります。
協議離婚や調停離婚では金銭のやり取りについて柔軟に対応できるのがメリットです。
6.不妊でお悩みの方はご相談ください
不妊は極めてプライベートな問題で、打ち明ける相手も見つからず一人で抱え込んでしまいがちです。しかし悩みを抱え込んでしまうと、心身ともに調子を崩してしまいますし、いろいろなことが悪い方向へ回転してしまいます。離婚を考えているなら弁護士がアドバイスやサポートをいたします。茨城のDUONは離婚問題に力を入れており、親身で誠実な対応をいたしますので、お気軽にご相談ください。