離婚を前提に別居する前に確認したいこと|正しい別居のやり方と注意点
離婚協議の際、相手と同居したままではお互いにストレスがたまりますし、感情的になって話し合いが難航してしまうリスクも高まります。冷静になるためにも「別居」を検討しましょう。
ただし不適切な方法で別居を強行してしまったら「悪意の遺棄」などが成立して相手に慰謝料を払わねばならない可能性があり、親権を奪われてしまうリスクも発生します。
今回はそうした不利益を避けて「正しく別居する方法」を弁護士が解説します。
1.裁判で離婚が認められやすい別居期間は?
別居期間は、裁判で離婚を認めるかを判断する重要な事実です。裁判所は、夫婦関係がすでに破綻しているかを総合評価します。典型的には、別居が長期に及ぶほど「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に該当しやすくなります。ただし、必要な期間は事情により変動します。形式的に年数のみで決まるわけではありません。
3〜5年程度が一つの目安となる理由
運用上、同居解消後の別居が長期化すると、実体としての婚姻関係が消滅していると評価しやすくなります。社会的・経済的な結びつきが弱まり、相互協力義務の履行可能性が低下するためです。居所の分離、生活費の分担状況、連絡頻度、未成熟子の監護実態といった要素を併せて検討します。別居期間が3〜5年程度に達すると、破綻の継続性が客観化されやすいといえます。
短期間でも離婚が認められやすいケース
有責行為が明白な場合は、年数よりも違法性・有害性の強さが重視されます。具体例として、不貞行為(配偶者の自由意思による性交渉)、継続的な暴力(DV)、深刻なモラルハラスメントが挙げられます。これらは法定離婚事由に該当し得ます。証拠が確定的で、再構築可能性が乏しい事情が整えば、別居期間が短くても破綻の認定に近づきます。
長期の別居が必要となりやすいケース
責任の所在が明確でない場合は、破綻の継続性や回復不能性を年数等の客観事実で補強する必要があります。具体例として、性格の不一致、生活時間のずれ、価値観の相違などが該当します。決定的な離婚原因がない場合は、別居年数、別居後の交流の途絶、家計分離の実態、別居後の新たな生活基盤の形成状況を積み重ねることが重要です。
注意点
別居を開始する前に、生活費(婚姻費用)の確保、監護体制、財産の把握、連絡手段、住民票の取扱いを整理してください。別居中の言動は、破綻の評価に影響します。別居後に不貞行為が発生した場合、責任追及の対象となることがあります。協議が停滞すれば、調停・裁判への移行を視野に、証拠化と時系列の整理を並行して進めます。
2.別居と離婚手続の全体像(協議・調停・裁判)
別居は、離婚手続の各段階で事実関係を整理し、合意形成や裁判上の主張立証を支える基盤となります。協議では合意項目の明確化に資し、調停では合意案の現実性を高め、裁判では婚姻関係の破綻や監護実態の立証要素として機能します。以下、段階ごとに要点を整理します。
協議離婚と別居の位置づけ
協議離婚は、当事者の合意により離婚届を提出して成立します。別居により生活実態が分離すると、合意すべき項目が明確になります。合意項目は、親権、監護者、養育費、面会交流、財産分与、年金分割、慰謝料、引越し費用の負担などです。合意は書面化し、支払方法、支払期日、履行遅滞時の措置、強制執行認諾文言の有無まで定めます。別居開始時から家計の分離、子の監護体制、連絡手段を記録し、協議資料として保存します。
家事調停(夫婦関係調整)に進む場合
協議が整わない場合は、家庭裁判所に家事調停を申し立てます。別居の有無は、調停委員が解決案を検討する際の重要な事情です。別居後の収支、子の監護環境、面会交流の運用状況、生活拠点の安定性を示す資料を準備します。婚姻費用分担調停と併合・併行することが多く、査定表や家計資料により暫定的な生活費を確保します。調停条項は履行可能性を重視し、支払ルール、情報開示、変更時の協議手続を具体化します。
審判・訴訟に進む場合
調停不成立の場合、審判や訴訟に移行します。裁判では、婚姻関係の破綻、破綻経過、再構築の可能性、未成熟子の利益が中心争点になります。別居は破綻の継続性を示す客観事情として評価されます。主張立証では、別居期間、別居に至る経緯、別居後の交流状況、家計の分離、監護実績、居住や就労の安定度を時系列で示します。疎明資料として、賃貸借契約書、住民票、通帳明細、家計簿、通学・通園記録、医療記録、連絡ログ、第三者の陳述書等を用います。
タイムライン設計と証拠化
別居開始前後の行動計画を作成します。開始前は、収入・支出・資産負債を把握し、生活費と初期費用の見込みを立てます。開始時は、住居契約、ライフライン契約、郵便転送設定、連絡手段の確保、子の学校・保育先への届出を行います。開始後は、費用の授受、面会交流の運用、トラブル発生時の記録を継続します。全期間を通じて、日付入りのメモ、メール・チャットのスクリーンショット、領収書、写真など、改ざん困難な形で保存します。
別居中の生活設計と公的制度
婚姻費用は法的根拠に基づき請求できます。請求前から家計資料を整え、支払が滞る場合は早期に調停を検討します。住民票の取扱いは、安全確保と手続適法性の両立を意識します。健康保険、扶養、児童手当、ひとり親向けの支援制度の要件を確認します。勤務形態の変更や就業支援の活用により、収入の安定化を図ります。子の監護では、生活リズムの一貫性、通学・通院の継続性、第三者評価の確保が重要です。
3.離婚の際に別居する効果
そもそも離婚の際、別居するとどういった効果があるのでしょうか?
お互いが冷静になって話を進められる
夫婦が同居したままでは、日常生活で顔を合わせるので諍いが増えてしまいがちです。離婚協議を進めようとしても、お互いになじりあいになってスムーズに進めにくいでしょう。
別居すると相手と離れて生活できるので、お互いに冷静に話を進められます。一緒に住んでいるとけんかばかりになる夫婦の場合、別居した方が早く離婚しやすいものです。
相手が離婚に応じないケースでこちらの真剣さを伝えられる
こちらとしては離婚したいのに、相手が応じてくれないケースも少なくありません。
別居すると「真剣に離婚を望んでいる」気持ちが相手に伝わるので、相手もまじめにとらえて離婚交渉が進みやすくなります。同居中は相手が強硬に離婚を拒絶していても「出て行かれたなら離婚もやむを得ない」と考えを変えて離婚に応じる可能性があります。
精神的ストレスからの解放
離婚したい相手と同居していると、大変な精神的ストレスがかかります。顔を見るたびに嫌気がさし「一刻も早く離れたい」と考える方も多いでしょう。
別居してしまえば精神的なストレスからも解放され、日常生活や仕事に専念しやすくなります。
4.別居のデメリット
別居には以下のようなデメリットもあるので、把握しておいて下さい。
財産分与の資料を集めにくくなる
離婚の際に夫婦共有財産があれば、財産分与が可能です。ただしそのためにはどういった財産があるのかを明らかにしなければなりません。
同居していれば相手名義の預貯金通帳や生命保険証書などの資料を容易に集められますが、別居すると収集が難しくなり、相手に財産隠しされてしまうおそれも高くなります。
不倫の証拠を押さえにくくなる
相手が不倫している場合、慰謝料請求が可能です。ただ相手が認めない場合には証拠によって立証しなければなりません。
同居していれば相手のスマホやスケジュール帳をチェックしたり行動パターンを分析して探偵事務所に依頼したりしやすいのですが、別居すると不倫の証拠も押さえにくくなってしまいます。
生活費が不足するおそれがある
専業主婦などで相手に生活費を頼っていた場合、別居すると相手から生活費が払われなくなり、生活に困窮するおそれがあります。ただし「婚姻費用分担請求」をすれば相手に別居中の生活費を請求できます。生活費の請求については後に詳しくご説明します。
関係修復が難しくなるリスク
別居により、日常の対話や共同作業が途絶え、相互理解の機会が減少します。
連絡頻度の低下、家計や育児の役割分担の固定化、新たな生活リズムの定着は、関係修復のハードルを上げます。未成熟子がいる場合、登校や習い事の環境変化、行事参加の偏り、引渡し時の緊張が心理的負担となり、親子関係や共同監護の運用に影響します。
第三者(親族・学校・職場)の介入が増えると、利害調整が複雑化し、当事者間の信頼回復がさらに難しくなります。将来的に協議離婚を選ぶとしても、条件調整や情報共有が滞ると、調停・裁判への移行を余儀なくされることがあります。別居を開始する場合は、連絡手段・頻度・面会交流の基本ルールを先に合意し、記録と検証のサイクルを設けて、不要な対立を予防してください。
費用・手続負担の具体と対処
別居は、家計と事務負担の増加を伴います。二重家賃・光熱・通信費、初期費用(敷金・礼金・保証料・引越し費)、家財の重複購入、通学・通勤経路変更による交通費の増加が生じます。
手続面では、住民票・郵便転送・各種契約変更、学校・保育・医療機関への届出、金融機関・保険・年末調整の情報更新が発生します。
負担軽減のため、①当面6か月の家計見通し、②賃貸条件の比較表、③引越し・購入費の上限設定、④公共料金・通信のプラン最適化、⑤交通費の定期券設計を事前に行います。婚姻費用の請求や調停に備え、領収書・見積書・契約書・通帳明細を日付順に保全し、費目別に整理します。支出が一時的に膨らむ初月・次月は、減額交渉や支払期日の調整を併せて検討します。
5.「悪意の遺棄」にならない別居方法とは
夫婦が別居するときには「悪意の遺棄」にならないよう注意が必要です。悪意の遺棄とは配偶者を見捨てることです。
夫婦には「同居義務」「相互扶助義務(お互いに助け合う義務)」があるので、正当な理由なしに一方的に別居を強行してはなりません(民法752条)。一方的に家出して「悪意の遺棄」が成立してしまったら、慰謝料支払い義務も発生します。
別居しても違法にならないのは、以下のような場合です。
- 相手から暴力を受けている
- 相手との関係が冷え切ってけんかが絶えない
- 相手との関係が冷え切って家庭内別居状態となっている
- 相手が不倫した
- 相手と話し合って双方が別居に納得した
- 経済力のある側が家を出る場合、別居後もきちんと生活費を負担する
勝手な別居が不利になる場面
事前の合意や連絡、生活費の手当てがない一方的な家出は、交渉・調停・裁判のいずれでも評価が下がります。親権・監護者指定では、同居継続性、養育環境の安定性、面会交流の実施可能性が問われます。連絡遮断や養育妨害があると、監護補助者としての適格性を疑われます。
婚姻費用では、稼働能力や家計状況を示さずに別居を強行すると、不相当に高額な請求だとみなされるおそれがあります。居住費の二重発生や転居の反復は、家計逼迫の要因として不利に作用します。財産分与前の預貯金移動や家財の持ち出しは、使途不明金や特有財産化の主張を招きます。別居の必要性と相当性を立証する資料を整え、別居開始の連絡、当面の生活費、子の生活スケジュールを具体的に提示してください。
別居中の不貞行為の注意点
別居は婚姻の解消を前提とする行動でも、離婚成立前は婚姻関係にあります。不貞行為(配偶者の自由意思による性交渉)は、別居中であっても慰謝料請求の対象になり得ます。
交際の開始時期、肉体関係の有無、相手方の認識などの事情が重視されます。連絡履歴や位置情報、費用負担の痕跡が証拠化されると、責任が認定されやすくなります。第三者との接触は慎重に管理し、やむを得ず交流する場合でも、二人きりの滞在や宿泊を避け、金銭授受や高頻度のやり取りを控えてください。別居の正当性を損なう行為は、交渉の停滞や和解金の増額につながります。
悪意の遺棄と適法な別居の違い
悪意の遺棄は、正当な理由なく同居・協力・扶助義務の履行を放棄する行為を指します。典型例は、無断の家出と生活費不提供、連絡遮断、監護放棄の併存です。適法な別居は、必要性と相当性を備え、生活費(婚姻費用)の手当て、連絡手段の確保、子の監護体制の維持、財産管理の透明化といった措置を伴います。
判断要素は、①別居に至る経緯(暴力・不貞などの有無)、②開始時の通知と合意の有無、③家計分離の方法と生活費の提供、④子の通学・医療・生活リズムの連続性、⑤面会交流の運用、⑥財産処分の有無、⑦再構築可能性の検討状況です。
DVや重大なハラスメントがある場合は、安全確保を最優先とし、保護命令や一部閲覧制限などの手段を併用します。別居開始前後の記録化と通知、当面の生活運用の書面化が、悪意の遺棄と評価されないための要点です。
別居が違法になるかどうか不安な方は、1度弁護士までご相談ください。状況に応じてアドバイスをいたします。
6.婚姻費用分担請求について
専業主婦などの収入のない方が別居する場合、相手に婚姻費用(生活費)を請求できます。婚姻費用の金額は、夫婦の収入状況によって異なります。相手の収入が高いとその分高額な費用を請求できますし、こちらが子どもを養育するなら子どもの分が足されて婚姻費用が増額されます。
婚姻費用の請求方法
相手が婚姻費用の支払に応じない場合には、家庭裁判所で「婚姻費用分担調停」を申し立てましょう。そうすれば生活費を払ってもらうための取り決めができます。調停では「調停委員」という第三者が間に入って相手を説得してくれるので、2人の話し合いでは生活費支払いを渋っていた相手でも支払に応じるケースが多数です。
調停でも相手が応じない場合には「審判」になり、裁判所が相手に婚姻費用の支払い命令を出してくれます。
さらに調停や審判で決まった婚姻費用を相手が払わない場合には、給料や預貯金を差し押さえて回収できます。
以上のように「別居したら生活費を受け取れない」事態にはならないので、安心しましょう。不安があれば弁護士がサポートいたします。
婚姻費用の算定と請求フロー
婚姻費用は、夫婦が別居中でも互いに生活を維持するための費用を意味します。請求の起点は、当事者間の協議、家庭裁判所での調停、審判の順に進みます。必要書類は、源泉徴収票、給与明細、課税証明書、扶養状況、家賃や保育料などの支出資料です。子の人数と年齢、双方の年収、住宅費の負担状況を前提に、算定表に基づいて標準額を見積もります。未払いが蓄積する前に、請求意思を文書化し、送付日と到達日を記録します。調停では、暫定的な支払開始日、振込口座、遅延時の対応、年収変動時の見直し方法まで合意します。支払開始を遡及させる主張を行う場合は、別居開始時の収入資料と請求通知の記録を提示します。
簡易試算の活用と留意点
算定表による標準額は、子の医療費や教育費、保育料、住宅費などの個別事情で上下します。簡易試算は、双方年収と子の人数・年齢を入力して目安を把握する段階で有用です。合意や調停に進む際は、標準額と個別事情の差を根拠資料で説明します。臨時的な残業や賞与の扱い、個人事業の所得計算、社宅や住宅手当の評価は争点になりやすい領域です。支払方法は毎月定額を原則とし、入金日、振込手数料の負担、年1回の資料交換、事情変更時の協議期限を取り決めます。目安額を把握したい方は、所内の「婚姻費用かんたん試算」ページ(内部リンク)をご利用ください。
婚姻費用の見直し(増減・終了・遡及)
婚姻費用は、事情変更が生じたときに見直しを検討します。事情変更とは、失業・転職・大幅な収入変動、病気・出産等の生活事情、子の進学・進級による教育費の増加、住居費の大幅な変動などを指します。
合意で定めた場合も、調停・審判で定めた場合も、継続的義務である以上、相当な理由があれば増額・減額の調整が可能です。見直しを求める側は、変更事由の発生時期、内容、影響額を資料で示します。給与明細、課税証明、就労契約、医療費の領収書、家賃契約、学費明細等を時系列で提出します。終了の主張は、同居再開、離婚成立、扶養の必要性の消滅など、根拠の明確化が前提です。遡及については、原則として請求意思の表示以降を基準に検討します。
早期の通知と資料整備が、適正な見直しに直結します。
特別費(教育・医療等)の取り扱い
婚姻費用の標準額には、通常の教育・医療・生活費が概括的に含まれますが、突発性・高額性・必要性が高い支出は「特別費」として個別に協議します。典型例は、私立校・塾・予備校の入学金や高額授業料、受験費用、歯科矯正・手術等の医療費、発達支援・療育関連費、長期入院に伴う付添費用、部活動の遠征費・楽器購入などです。
取扱いは、①必要性(子の利益に資するか)、②相当性(費用の水準が社会通念上妥当か)、③双方の負担能力(収入・資産・他の扶養義務)を基準に検討します。原則は事前協議とし、費目・期間・上限額・按分割合・精算方法(都度精算/月次合算)を合意書に明記します。必要資料は、見積書・領収書・診断書や学校の案内等です。支出後の事後精算とする場合でも、事前に「対象費目」「上限」「証憑提出期限」を取り決めると紛争が予防できます。
養育費へ切り替わった後も同様の枠組みで扱います。事情変更が生じたときは、合意の見直し条項に従い、資料交換と協議の期限を守って調整してください。
7.離婚前に別居すべきケース
離婚を検討していて以下のような状況であれば、別居をお勧めします。
- 相手に離婚の話を持ちかけても応じてもらえない
- 相手との関係が冷え切って一緒に暮らしていると強いストレスを感じる
- 夫婦関係の不和が子どもに伝わり、子どもの様子がおかしくなっている
- DVを受けている
ケース別にみる別居期間・手続のポイント
以下は、典型的な事情ごとに、別居期間の見通しと手続運用の要点を整理したものです。個別事情により前後します。
①DV・虐待がある場合
安全確保を最優先とし、保護命令や一時保護の活用を検討します。証拠が明確で再構築可能性が乏しいと評価されれば、短期間でも破綻の認定に近づきます。診療記録、相談機関連絡票、写真、被害申出書を準備します。
②不貞行為がある場合
交際開始時期と肉体関係の有無が争点になりやすいです。別居期間が短くても、確度の高い証拠が整えば、離婚合意や裁判での認定が前進します。示談や慰謝料の交渉は、証拠保全と同時並行で進めます。
③浪費・借金が顕著な場合
家計の分離を早期に可視化し、通帳明細、カード利用履歴、貸金契約書等を整理します。婚姻費用分担調停を先行・併行し、暫定的な収支枠組みを確保します。別居期間は中長期化しやすいため、継続的な資料交換ルールを定めます。
④性格の不一致が中心の場合
決定的な有責行為が乏しいため、別居の長期化、交流頻度の低下、生活基盤の固定化といった客観事実の積み上げが重要です。協議で合意に至らない場合は、調停で現実的な解決案を積み上げ、訴訟では再構築可能性の乏しさを時系列で主張立証します。
⑤依存症・精神疾患が絡む場合
治療計画や支援体制の有無、家族への影響、再発リスクを評価します。医療記録や主治医意見書を収集し、監護・面会交流の運用を具体化します。別居期間は事案により幅が出るため、経過観察の記録を継続します。
⑥子の監護を巡る対立が大きい場合
通学・通園の継続性、生活リズム、第三者評価(園・学校・医療機関)の確保が中心です。引渡し手順や代替日の運用を定め、運用実績を蓄積します。監護者指定・審判を視野に入れ、時系列表と証拠目録を整えます。
8.別居の手順
別居するなら、以下のように進めましょう。
① お金を貯める
賃貸物件を借りるにもお金がかかりますし引っ越し費用も必要です。当面の生活費が不安な場合もあるでしょう。可能な限り別居前にお金を貯めましょう。
② 同居中に集められる資料や証拠を集める
別居すると財産分与や不倫の証拠集めが難しくなります。できる限り同居中に収集しておきましょう。
③ 引っ越し先を決定する
賃貸住宅に移るのか実家に戻るのかなど、引っ越し先を決定しましょう。
④ 仕事を探すなど、生活費を確保する
別居したら婚姻費用を受け取れるとはいってもそれだけでは不足する場合もあります。仕事を探して生活費を得る手段を確保しましょう。
⑤ 引っ越し
引っ越し業者を選定・依頼して、引っ越しを済ませます。
⑥ 住民票の異動
引っ越しをしたら住民票を異動しましょう。離婚前であっても基本的には現住所地に住民票がある方が便利です。ただし相手に知られたくない場合などにはあえて住民票を移さないケースもあります。
DV案件の場合、住民票を異動しても相手に閲覧させないよう伏せてもらえる手続きを利用できます。異動するなら必ず役所にDV案件であると告げて閲覧制限をかけてもらいましょう。
8-1.別居前の事前準備チェックリスト
別居開始前に、生活の連続性と手続適法性を確保するための準備を行います。以下を順番に点検してください。
▢住居の確保:賃貸借契約、初期費用、保証人の手当てを済ませ、入居日と引越し日程を調整します。
▢収支の試算:当面6か月分の家計見通しを作成し、固定費(家賃・光熱・通信・保険)と変動費を区分します。
▢資産・負債の把握:預金、証券、保険、退職金見込、ローン残高を一覧化し、通帳・明細・契約書を保存します。
▢生活費(婚姻費用)の手当て:請求可能性を検討し、源泉徴収票、給与明細、家計簿を整えます。
▢子の監護体制:通学・通園、医療、習い事、預かり先の継続可否を確認し、送迎計画と連絡手段を確保します。
▢連絡・記録:別居に至る経緯、協議内容、費用授受、面会交流の実施状況を日付入りで記録します。
▢証拠の保全:不貞、暴力、モラルハラスメントが疑われる場合は、診療記録、写真、やり取りのログ、第三者陳述を保全します。
▢住民票・郵便の取扱い:転居先の安全性と事務手続を踏まえ、住民票の移動、郵便転送届を適切に行います。
▢情報セキュリティ:端末、クラウド、金融機関ログインの認証を見直し、パスワードを更新します。
▢ライフライン:電気・ガス・水道・通信の契約開始日を合わせ、支払い方法を設定します。
8-2.公的支援・手当の確認ポイント
別居後の生活の安定に向け、利用できる制度の適格性を早期に確認します。
- 児童手当・児童扶養手当:監護実態と所得要件を確認し、必要書類を揃えます。
- ひとり親向け支援:就労相談、家賃補助、医療費助成、保育料減免などの地域制度を調べます。
- 健康保険・扶養:別居に伴う被扶養者資格の見直しと、国保・社保の切替の要否を確認します。
- 税・年末調整:扶養控除や寡婦(寡夫)控除の適用可否を検討し、源泉・申告書類を準備します。
- 就労支援:勤務形態の変更、短時間勤務、転職支援の活用可能性を検討します。
- 住居関連:住宅確保給付金等の適用可否を自治体窓口で確認します。
8-3.住民基本台帳の一部閲覧制限の申出手続
加害行為やそのおそれがある場合は、住民基本台帳の一部閲覧制限を検討します。
これは、第三者による住民票の写しや戸籍の附票の取得を制限する仕組みです。
- 対象となる事情:配偶者からの暴力、ストーカー行為、これらに準ずる著しい被害のおそれ。
- 申出先:転居予定先または現住所の市区町村窓口(戸籍住民担当等)。
- 必要資料の例:申出書、本人確認書類、被害申出の疎明資料(診断書、相談記録、被害届受理番号、保護命令申立に関する資料、弁護士の受任通知など)。
- 手続の流れ:窓口で申出→審査→可否決定→制限開始。緊急性が高い場合は、その旨を申し出て暫定的な取扱いを相談します。
- 運用上の注意:制限は「絶対的な秘匿」を保証するものではありません。金融機関や学校等への住所変更は、順序と一貫性をもって行い、情報の散逸を避けます。郵便転送、携帯電話・公共料金の請求先変更、各種オンラインサービスの登録住所の更新を同日に近接させ、漏れを防ぎます。
- 期間と更新:事情が続く限り継続申出を検討します。状況が変わった場合は、解除の可否を窓口で確認します。
9.親権を取得したいなら必ず子どもを連れて家を出る
離婚の際、子どもの親権問題で相手ともめてしまうケースが少なくありません。親権を獲得したいなら別居の際に必ず子どもを連れて出ましょう。別居時に子どもと別れてしまうと、相手に親権をとられる可能性が高くなるからです。親権者になりたいなら、別居の際に子どもと離れてはなりません。
ただし「子の連れ去り」と判定されると相手から家庭裁判所で「子の引き渡し請求」などをされる可能性もあります。
親権問題が発生している事案で別居を希望されるなら、必ず事前に弁護士に相談するよう強くお勧めします。自己判断で行動すると、後に相手に親権をとられるなど大きな不利益を受ける可能性が高まるので、充分注意してください。
別居中の言動は監護適格性の評価に直結します。離婚成立前は婚姻関係にあるため、不貞行為が発生すると責任追及の対象となり得ます。面会交流の妨害、連絡遮断、突発的な転居の反復は、子の利益を損なう事情として不利に働きます。
別居開始時から、通学・通院・生活リズムの一貫性を確保し、連絡方法・引渡し手順・代替日の運用を文書化してください。監護実績は、学校や保育園の連絡帳、医療機関の受診記録、第三者の陳述書など客観資料で示します。
9-1.面会交流の運用ルール(合意例)
面会交流は、子の利益を最優先に、具体的かつ検証可能なルールを定めます。以下は合意条項例です。実情に応じて頻度・方法を調整してください。
- 実施頻度・時間:毎月第2・第4土曜、10時〜17時。学校行事と重なる場合は代替日を翌月第1土曜とする。
- 受渡し方法・場所:往路は非監護親が監護親の自宅最寄り駅で受領、復路は同駅で引渡しとする。遅延は15分以内に連絡。
- 実施方法:対面を原則とし、病気・荒天時はオンライン(ビデオ通話30分)に代替する。
- 費用負担:移動費は各自負担。催事等の臨時費用は事前に協議し、合意なき負担を強制しない。
- 連絡手段:専用メールアドレス(または記録が残るアプリ)で連絡し、原則24時間以内に返信する。電話は緊急時のみ。
- 健康・学校情報の共有:発熱・通院・投薬、学校行事・成績等の重要事項は、把握から3日以内に要点を共有する。
- 禁止事項:相手方の誹謗、連れ去りにつながる行為、無断宿泊、宗教・政治等の勧誘、第三者への過度な接触は行わない。
- 変更手続:事情変更が生じた場合、実施予定の7日前までに文書で提案し、3日以内に回答する。合意に至らない場合は調停を利用する。
- 検証と見直し:3か月ごとに運用を点検し、子の負担や学業、体調への影響を踏まえて必要に応じて修正する。
別居に関するQ&A
家庭内別居は「別居」に当たりますか?
住所は同一でも、家計や寝室、炊事洗濯などの生活実態が明確に分離し、相互協力が失われていれば、「実質的な別居」と評価されることがあります。食費・光熱費の負担、会話や連絡の頻度、子の監護分担など、分離の度合いを客観資料で示してください。郵便・連絡手段・家計の記録化が有益です。
単身赴任は「別居」とみなされますか?
業務上の転勤で、夫婦関係を維持する意思と実態(定期的な往来、家計の一体性、育児・家事の分担調整)がある場合は、通常は別居と評価されません。婚姻継続の意思や協力度合いが失われ、往来が途絶し、家計が恒常的に分離した事情が重なると、評価が変わる余地があります。
離婚せずに別居を続けることは可能ですか?
可能です。離婚を前提としない「別居継続」は、生活の安定や冷却期間の確保という観点で選択されます。この場合でも、婚姻費用(別居中の生活費)や面会交流、家計負担のルールを文書化してください。住民票・税・社会保険・扶養の扱いは、世帯構成や収入状況に連動するため、事前確認が必要です。
調停が不成立になった場合はどうなりますか?
主要争点(親権、監護者、養育費、面会交流、財産分与、慰謝料など)が合意に至らなければ、審判または訴訟に移行します。別居期間、別居後の家計分離、監護実績、交流状況などの客観資料を整理し、時系列で主張立証を準備します。審判前に一部合意が可能な項目は、個別に条項化しておくと紛争範囲を限定できます。
別居開始時の住民票はどう扱いますか?
安全確保と事務手続の整合を優先します。転居が長期化する見込みであれば、住民票の異動を検討します。加害行為の恐れがある場合は、住民基本台帳の一部閲覧制限の申出を活用します。児童手当、学校・保育、医療機関、金融機関の住所情報は、順次・同一性を担保して更新します。
面会交流は別居中にどう運用しますか?
子の利益を最優先に、頻度・方法・場所・引渡し手順・病気や行事時の代替日・連絡手段を具体化します。実施状況は日付入りで記録し、負担の偏りが生じないよう調整します。葛藤が強い場合は、第三者機関の関与やオンライン交流の併用を検討します。運用が安定すれば、合意や調停条項に反映します。
離婚前に別居するなら弁護士へご相談ください
離婚前に別居するとき、具体的な状況や立場に応じて最適な対処方法が異なります。弁護士からアドバイスを受けておくと安心ですし、婚姻費用分担調停、協議や交渉等のサポートも受けられます。茨城県で離婚や別居についてお悩みでしたら、DUONまでお気軽にご相談ください。








