DVで離婚する場合の慰謝料の相場とは?DVの証拠の集め方や請求の流れを解説

DV被害を受けてきたことが原因で離婚する場合、相手へ慰謝料を請求できます。

そうはいっても「いくらの慰謝料を請求できるのか?」「暴力を振るう相手に対し、どうやって請求したらいいの?」と疑問や不安を感じる方が多いでしょう。

今回は相手のDVが原因で離婚する場合の慰謝料の相場、金額が高額になる場合や請求の流れについて、解説します。

1.DVで離婚する場合の慰謝料の相場は50~300万円

DVは「家庭内暴力(Domestic Violence)」です。日本でDVというと夫婦や配偶者間の暴力を指すケースが多く、中でも夫が妻に対し暴力を振るう事例が多くみられます。

暴力は相手の人格権を無視した卑劣な不法行為なので、暴力を理由に離婚するなら相手へ慰謝料を請求できます。

DVによる慰謝料の相場は、一般的に50万円から300万円程度とされています。しかし、慰謝料の金額は一律ではなく、事案ごとに異なります。慰謝料額は、DVの内容や期間、被害者の状況、加害者の態度など、さまざまな要因によって変動します。例えば、DVの加害者が長期間にわたって暴力を振るっていた場合や、被害者が身体的・精神的に深刻なダメージを受けている場合には、慰謝料額が高額になる傾向があります。

また、慰謝料の相場を把握するためには、過去の判例を参考にすることが有益です。たとえば、ある判例では、結婚後10年以上にわたってDVを受けた場合、慰謝料として300万円が認められたケースがあります。一方で、短期間でのDVや軽微な暴力の場合は、50万円程度の慰謝料が認められることもあります。

このように、慰謝料の額は被害の内容に応じて異なるため、具体的な金額を知るためには、弁護士に相談し、実際のケースに即したアドバイスを受けることが重要です。

2.DVの慰謝料が高額になる事情

DVの慰謝料が高額になる状況にはいくつかの要素があります。以下のような事情があると、DVの慰謝料が高額になりやすい傾向があります。

DVの回数が多く、頻度が高い

暴力の回数や頻度が多い場合、慰謝料額は高くなることが一般的です。例えば、週に3回暴力を振るわれていた場合と、月に1回程度の暴力を受けていた場合では、前者の方が慰謝料額が高くなる傾向があります。頻繁に暴力を受けることで、被害者の心身に与える影響が大きく、慰謝料額に反映されます。

DVの期間が長い

暴力が続く期間が長いほど、慰謝料額は増額される可能性があります。例えば、1年間にわたって暴力を受け続けた場合と、10年間にわたって暴力が繰り返された場合、後者の方が圧倒的に高額な慰謝料を請求できる可能性があります。長期間にわたる暴力は、被害者に対する精神的・身体的な影響が大きく、その分慰謝料が増額される理由となります。

暴力の内容が激しく、時間が長い

暴力が激しい場合や、暴力が長時間にわたって継続した場合、その慰謝料は増額される傾向があります。例えば、殴る、蹴る、髪の毛を引っ張る、引きずり回すなど、身体的に深刻な影響を与える暴力が数時間続いた場合と、単発的に殴られた場合では、前者の方が慰謝料額は高くなります。暴力の内容が激しく、かつ長期間続く場合、慰謝料が増額されるのは当然の結果といえます。

暴力の原因が身勝手である

加害者の暴力の動機が身勝手な理由であった場合、慰謝料額は増加することが多いです。例えば、加害者が「虫の居所が悪かった」「酒を飲んで暴力を振るった」「特に理由はなく、気分で暴れた」などの理由で暴力を振るった場合、慰謝料が高額になりやすいです。反対に、被害者が加害者に対して侮辱的な言動を繰り返していた場合など、暴力の理由に正当性があると判断される場合、慰謝料額が減額されることもあります。

DVで大けがをした、後遺症が残った

DVによる暴力で重大なけがを負ったり、後遺症が残ったりした場合、慰謝料が高額になることがあります。例えば、骨折などの大けがを負った場合や、精神的なダメージからうつ病やPTSDなどの後遺症が残った場合には、慰謝料が増額される可能性が高いです。

実際の裁判例では、骨折のために200万円の慰謝料が認められたケースや、重大な後遺症が残った事案で300万円の慰謝料が認められた例もあります(東京地裁平成18年7月27日、同年11月29日)。このように、被害が深刻であればあるほど、慰謝料は高額となる傾向があります。

3.DV慰謝料を請求するための証拠と集め方

DVで慰謝料を請求するには、証拠が必要です。暴力を振るわれた証拠がなかったら相手は「暴力など振るっていない」と否定するでしょうから、裁判をしても慰謝料は認められません。

以下でDVの証拠と集め方をご説明します。

ケガをした部分の写真や動画

暴力を受けてあざや傷ができた場合、その部位の写真や動画を撮影することが重要です。撮影する際は、どの部位にケガがあるかが明確にわかるように、近くから大写しにしたものと遠くから撮影したものを複数枚撮影しましょう。

また、撮影した写真については、その内容を説明するメモを添えることをおすすめします。撮影が難しい場合は、親や友人に協力してもらいましょう。さらに、ケガは時間が経つと回復してしまうため、できるだけ早期に撮影を行うことが重要です。

暴力を振るわれているときの録音録画

DVの加害者との会話を録音した音声や、暴力の現場を録画した映像も証拠として使用できます。これらの証拠があれば、DVが行われていたことを直接的に証明することができます。

ただし暴力を振るわれている最中に録音や録画を始めるのは困難でしょうから、無理にとろうとする必要はありません。

目撃者の証言

DVが行われた現場を目撃した人物の証言も、証拠として有効です。目撃者がいる場合、その証言がDV行為の存在を証明するための貴重な証拠となります。

詳細な日記

被害者がDVの詳細を記録した日記やメモも有力な証拠となることがあります。暴力が起きた日時や内容を具体的に記録している場合、裁判で証拠として使用できる場合があります。

  • 暴力を受けた日時(○月○日○時頃)
  • 暴力を受けた時間(○時間くらい、30分くらいなど)
  • どのような暴力を振るわれたのか

最低限、上記の3点について具体的に書きましょう。継続的に日記をつけていると信用性が高くなります。

診断書、画像、診療報酬明細書

暴力を受けたらすぐに病院へ行き、医師の診察を受けましょう。

DVにより負った身体的・精神的な傷を証明するために、医師による診断書が重要な証拠となります。診断書には、怪我の程度や治療内容が詳細に記載されており、被害の深刻さを証明する材料となります。

レントゲンやCT、MRIなどの画像データも証拠になります。

なお診断書は、その場で作成を依頼しなくても、数年間であれば出してもらえるケースが多数です。ただしカルテ保存期間が5年なので、5年を超えると診断書を書いてもらえなくなる可能性があります。できるだけ早めに申請しましょう。

親や友人に助けを求めた際のメールなどの記録

暴力を受けた際に、親や兄弟、友人などにメールやLINEなどで連絡を取った場合、そのやり取りの記録も重要な証拠となります。送信したメッセージと、それに対する相手からの返信の両方を保存しておきましょう。これらのやり取りは、暴力を受けた事実を証明する材料として非常に有効です。

警察や公的機関への相談記録

警察や女性センター、DVセンターなどの公的機関へ相談した際の相談記録もDVの証拠になります。警察の記録や被害届があれば、加害者の行為が証拠として正式に記録されています。

また、警察からの対応(逮捕状の発行、加害者の取り調べ結果など)も有力な証拠となります。相談記録は相談先へ申請すれば出してもらえるので、必要に応じて問い合わせをしてみてください。

あまり古くなると破棄される可能性があるので、これらについても早めに申請しておくようおすすめします。

証拠を集める際には、感情的にならず冷静に行動することが大切です。また、集めた証拠が適切に法的に認められるものかどうかについては、弁護士に相談することをお勧めします。

4.DVで離婚、慰謝料請求する流れ

DVを理由に離婚し、慰謝料請求を行うためには、以下の手順で進めることが重要です。

STEP1: 交渉

一般的な離婚では、まず交渉を通じて離婚条件を決定し、慰謝料を請求するケースが多いです。もし、相手と冷静に話すことができる場合、離婚を切り出し、慰謝料についても話し合いを行いましょう。子どもの親権や養育費、財産分与など、他の重要な離婚条件についても決定することが必要です。

ただし、相手がDV加害者である場合、離婚を切り出すことで暴力に発展する恐れがあるため、無理に交渉を行う必要はありません。その場合は、次のステップに進むことを検討しましょう。

DV加害者への対応方法の説明

DV加害者に対しては、慎重かつ法的に適切な対応を取ることが重要です。特に、加害者との接触を避けるための方法や、加害者から暴力を受けた場合の対応について知っておくと、より安全に離婚手続きを進めることができます。

・加害者との接触を避ける方法

DV加害者と直接対話することは危険を伴います。弁護士を通じた交渉や、家庭裁判所を介した調停を利用することが推奨されます。加害者と直接顔を合わせない方法を選ぶことが、被害者の安全を守るために重要です。

・加害者が暴力を振るった場合の対応

すぐに警察への通報を行い、暴力を受けた証拠を集めることが大切です。また、保護命令を申し立てることで、加害者からの接触を法的に防ぐことができます。

加害者への適切な対応を知ることで、より安全に離婚手続きを進めることができます。

STEP2: 別居する

DV案件では、早期に別居することが安全な離婚のために非常に重要です。

別居をすることで、暴力を受ける危険が大幅に低下し、精神的な恐怖から解放されることで、冷静に事態を把握できるようになります。また、相手が一家の大黒柱であった場合、別居後に婚姻費用(生活費)を請求することができます。

さらに、子どもを一緒に連れて行くことで、養育費も加算されるため、生活に困る心配はありません。

保護命令について

別居後、相手が自宅に押しかけてくる恐れがある場合、保護命令を申し立てることが可能です。保護命令が出ると、相手は6ヶ月間、あなたに接触できなくなります。

違反した場合は逮捕される可能性もあり、相手が近づくことはなくなります。また、子どもや親に対しても接触を禁じる命令を出すことができます。

DV被害者支援機関の紹介

DV被害者には公的な支援機関や民間団体が多く存在しており、相談窓口や一時的な避難所、カウンセリングなどさまざまな支援が提供されています。

もしDVを受けている場合、専門機関への相談が重要です。以下の機関に相談することで、状況に応じた支援を受けることができます。

・配偶者暴力相談支援センター

全国に設置されており、DV被害者に対して、相談、保護、法律支援を行っています。電話やメールで相談できるので、まずは匿名で相談することも可能です。

・女性センター

各都道府県に設置されており、女性に特化したDVやその他の問題に関する相談窓口があります。ここでは、一時的に避難できる場所の提供や、必要に応じて弁護士の紹介も行っています。

・民間NPO法人

さまざまな民間団体が、DV被害者を支援するために活動しており、シェルターやカウンセリング、加害者の更生プログラムなどを提供しています。相談や支援の内容は各団体によって異なるため、自分のニーズに合った団体を選ぶことができます。

これらの機関に相談することで、DVからの逃避や必要な支援を受けることができます。最寄りの支援機関に早期に連絡を取ることをおすすめします。

DVに関する法的知識の提供

DVに関する法的知識を理解することは、慰謝料請求や離婚手続きを進めるうえで非常に重要です。以下の法的枠組みや裁判例を知っておくと、手続きにおいても自信を持って進めることができます。

・DV防止法

これは、配偶者や交際相手からの暴力を防ぐための基本的な法律で、被害者を保護するためにさまざまな手続きを規定しています。この法律に基づき、被害者は保護命令や接近禁止命令を申し立てることができます。

・民法

離婚や慰謝料の請求に関する基本的な法律です。DVを理由に離婚する場合、民法に基づく慰謝料請求が可能となります。民法における「不法行為」に該当するため、加害者に対する慰謝料を請求できます。

・裁判例

裁判所が過去にどのような判断を下しているのかを知ることは有益です。例えば、DVによる慰謝料請求において、暴力の回数や程度、加害者の態度が慰謝料額にどのように影響を与えるかを理解することができます。

STEP3: 離婚調停

もしも相手と話し合いができない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てましょう。調停では、調停委員が間に入ってくれるため、DV加害者と直接対面することなく、あなたの意見を伝えることができます。調停委員を通じて、相手の意見も伝わり、調停が進められます。

また、DV加害者には粗暴な言動を取ることが多いため、そのような言動を調停委員に見せることで、相手の印象が悪化し、慰謝料額の増額に繋がる場合もあります。離婚調停では、DV案件であることを最初に伝えれば、「別室調停」という特別扱いを受けられます。この方法では、相手と顔を合わせることなく、調停を進めることができます。

別居後の住所秘匿

調停申立書には申立人の住所を記入する必要がありますが、相手に住所が知られることを避けたい場合は、「住所秘匿」を申し立てることが可能です。この申し立てを行えば、相手に住所が通知されず、住所が知られるリスクを回避できます。

STEP4: 離婚訴訟

調停でも合意できない場合には、離婚訴訟を提起し、裁判所に慰謝料請求を求めましょう。訴訟では、暴力を受けた証拠を提出し、DVがあったことを立証することで、裁判官から慰謝料支払い命令を出してもらえます。相手が離婚を拒否していても、裁判判決により離婚が認められ、財産分与や年金分割も受けられます。

訴訟は弁護士に依頼することが一般的であり、弁護士に任せることで、裁判所に出向く回数を減らすことができます。

STEP5: 離婚後の慰謝料請求も可能

DV案件では、離婚を急ぐあまり、慰謝料を決定せずに協議離婚をする場合があります。

その場合でも、離婚後に慰謝料を請求することは可能です。離婚後の慰謝料請求も基本的には話し合いで進めますが、相手が支払わない場合は「慰謝料請求訴訟」を提起することができます。

ただし、離婚後の慰謝料請求は「離婚後3年以内」に提起しなければならないため、時間が経過する前に迅速に対応する必要があります。

DV案件では、身の危険が伴う可能性が高いため、弁護士に代理交渉や調停、訴訟を依頼することをおすすめします。専門家のサポートを受けることで、安全に離婚や慰謝料請求を進めることができます。

DUONでは、DV被害者のサポートを行っていますので、茨城県内でお困りの方は、早めにご相談ください。

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