モラハラ配偶者と離婚したい|モラルハラスメント夫・妻と離婚する進め方と注意点

  • 夫や妻から日常的に侮辱され、暴言をはかれてつらい
  • 相手が過度な束縛をしてくるので苦痛を感じている
  • 友人や実家との付き合いを制限されて息苦しい
  • 異常に細かい家計簿を要求されて対応に困っている
  • 子どもに「お母さんのようになってはいけないよ」と悪口を吹き込まれるので、悪影響が心配
  • 夫が帰ってきてドアの開く音がすると、動悸がして苦しくなる

モラハラを受けているなら、離婚や慰謝料を請求できる可能性があります。
我慢せずに弁護士までご相談ください。
今回はモラハラ配偶者の特徴や離婚を進める方法、慰謝料について茨城の弁護士が解説します。

目次

モラハラとは

モラハラとは「モラルハラスメント(moral harassment)」の略で、直訳すると「倫理・道徳に反する嫌がらせ」です。もっとわかりやすくいうと「人間の尊厳を傷つけて人格否定する行為」といえます。日本で「モラルハラスメント」という場合、夫婦間でのモラハラを指すケースが多数です。

(1)モラハラ配偶者の特徴

たとえば以下のような行為がモラハラの典型例です。

  • 配偶者に暴言を吐く、侮辱する
  • 配偶者や配偶者の実家の親族、友人などの周囲の人を見下す、侮辱する
  • 自分の非を認めず謝らない
  • 少しでも気に入らないとしつこく責め立てる
  • なにか気に入らないことがあると無視し続ける
  • 平気で嘘をつく
  • 嫉妬心が強い、すぐに浮気を疑う
  • 異常に束縛する
  • 大声で怒鳴る、ものに当たって壊すこともある
  • 子どもに「お母さん(お父さん)のようになってはいけない」など悪口を吹き込む
  • 共感性がない
  • 異常に細かい家計簿をつけさせ、対応できないと「お前は家計管理ができない!」となじる
  • 自分のものは平気で高級品を買う

上記に当てはまるものがあれば、あなたの配偶者はモラハラ気質な可能性があります。

(2)モラハラ夫・モラハラ妻にみられやすい言動のパターン

モラハラ配偶者の言動には共通する特徴がありますが、「モラハラ夫」「モラハラ妻」という観点でみると、相談の多いパターンにある程度の傾向もみられます。あくまで一例ですが、次のようなケースがよく相談されます。

モラハラ夫の場合、「家計を握ってお金を渡さない」「家事や育児を当然視し、感謝やねぎらいの言葉がほとんどない」といった経済面・家事育児面での支配的な態度が目立つことがあります。外では穏やかに振る舞う一方で、自宅では些細なことで怒鳴る、長時間無視を続けるなど、妻と子どもの前でのみ攻撃的な態度を取るケースも少なくありません。

一方で、モラハラ妻の場合、「夫の収入や能力を繰り返し否定する」「義実家や仕事を一方的に批判し続ける」といった言動が継続することがあります。夫の行動を逐一チェックし、「そんなこともできないの」といった言い回しで長期間にわたり自尊心を削ぐような態度が続くケースも見受けられます。

いずれの場合も、「一度怒鳴った」「一度きついことを言った」といった単発の出来事ではなく、同じような言動が長期間繰り返されているかどうかが重要です。また、表向きは普通の夫婦に見えても、家庭内で継続的に人格を傷つける言動が行われている場合には、モラハラの疑いがあるといえます。

モラハラ被害は周囲に理解されにくい

モラハラ配偶者は社会的地位が高いケースも多く、家での対応とは裏腹に外面が良い方が多数います。モラハラがつらくて周囲に相談しても「何が不満なの?」「あなたが自分勝手なのでは?」などといさめられてしまうケースも少なくありません。

しかし夫婦間の問題は外には伝わりにくいものです。精神的ストレスが強くなると、不眠やうつなどの心身の不調にもつながりますし、子どもがいるご夫婦の場合には子どもにまで悪影響が及ぶ可能性があります。日々の生活が苦しくなっているなら、抱え込まずに専門家へご相談ください。

モラハラ配偶者と離婚すべきか

配偶者がモラハラ気質な場合、「自分が我慢すべきなのでは?」と考えて離婚すべきかどうか迷う方も多数おられます。日々相手から侮辱され、異常に束縛されて人格否定を受け続けると、ご本人の自己肯定感が低下してしまうケースが多いためです。

確かに配偶者が話の通じる人で、改善の余地があるなら夫婦としてやり直せる可能性もありますが、多くのモラハラ配偶者は反省しようとしません。
「問題のある言動を控えてほしい」と伝えると、逆キレして怒鳴ったり無視したり、何時間も説教をしてきたりするケースもあります。
このように反省のない人と一緒にいても、将来は見えません。あなたご自身だけではなく子どもへの影響を考えても、早めに離婚へ向けて進めるのが得策といえるでしょう。

モラハラが離婚原因として認められる法律上の条件

モラハラを理由として裁判所に離婚を認めてもらうには、「つらい」「一緒にいたくない」と感じているだけでは足りません。民法770条が定める「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たる程度の精神的虐待があると判断してもらう必要があります

この「婚姻を継続し難い重大な事由」は、夫婦関係が回復困難なほど壊れているかどうかを、具体的事情に照らして裁判所が総合的に判断するものです。モラハラの内容や頻度、期間、婚姻期間の長さ、子どもの有無、別居の有無など、さまざまな要素が考慮されます。

(1) モラハラが離婚原因として認められやすいケース

モラハラが離婚原因として認められやすいのは、次のような事情が重なっている場合です。

  • 日常的に人格を否定する発言や侮辱的な言動が繰り返されている  
  • 長期間にわたってモラハラが続いている  
  • モラハラにより、不眠やうつ病などの心身の不調が出ている  
  • 子どもに対する悪影響(おびえ、不登校など)がみられる  
  • 夫婦の会話がほとんどなく、既に長期間別居している

このような事情があると、夫婦関係が既に破綻しており、婚姻を続けることが現実的ではないと評価されやすくなります。実務では、録音データやメッセージのやり取り、診断書、第三者の陳述書などを組み合わせて、「モラハラの存在」と「夫婦関係の破綻」を立証していくことが一般的です。

(2)モラハラでも離婚が認められにくいケース

一方で、モラハラを主張しても、裁判で離婚が認められにくいケースもあります。たとえば、次のような場合です。

  • 年に数回程度の口論にとどまり、日常的な人格攻撃とはいえない場合  
  • 夫婦双方が感情的になって言い合っており、一方的な加害とまではいえない場合  
  • 夫婦関係全体としては、会話や協力関係が保たれている場合  
  • モラハラとされる言動が、客観的な資料でほとんど裏付けられていない場合

このような事例では、「夫婦間の通常の衝突の範囲内」と評価され、法定離婚事由に当たるとまでは認められないことがあります。モラハラを理由に訴訟まで進めるかどうかは、証拠の内容や量も含めて慎重な検討が必要です。

(3) 協議離婚と裁判離婚で求められるハードルの違い

協議離婚(話し合いによる離婚)の場合、法律上の離婚原因があるかどうかは必ずしも問題となりません。夫婦双方が離婚と条件に合意し、離婚届を提出すれば足ります。その意味では、モラハラの有無や程度にかかわらず、話し合いでまとまれば離婚自体は可能です。

これに対し、相手が離婚に応じず裁判離婚を目指す場合には、法定離婚事由の存在を裁判所に認めてもらわなければなりません。モラハラを理由とする場合には、先ほどの事情を踏まえて「婚姻を継続し難い重大な事由」があると評価してもらうための証拠や主張の整理が重要になります。

自分のケースが裁判でどの程度評価される可能性があるのかは、個別の事情により大きく異なります。早い段階で弁護士に相談し、協議離婚で進めるのか、調停・訴訟まで見据えるのかを一緒に検討することをおすすめします。

モラハラから離れるための別居と同居義務の関係

モラハラ配偶者と同居を続けることが心身の負担となっている場合、「まずは距離を置きたい」と考える方は少なくありません。一方で、「勝手に家を出たら不利になるのではないか」「同居義務に違反するのではないか」と不安に感じる方も多いです。ここでは、モラハラと別居の関係について整理します。

(1) モラハラから逃れるための別居は一概に不利とは限らない

夫婦には、原則として同居義務がありますが、これは常に同じ家に住み続けなければならないという意味ではありません。暴力やモラハラにより、同居を続けることが心身の安全を損なうような状況では、別居がやむを得ないと評価される場合があります。

実務でも、配偶者からの暴力や激しいモラハラから逃れるための別居が、直ちに不利な事情として扱われるとは限りません。むしろ、安全を確保するために別居したこと自体が、夫婦関係の深刻な対立状況を示す事情として考慮されることもあります。

もっとも、別居の経緯やその後の対応によっては、「一方的に家を出て、十分な生活費を渡していない」などと評価されるおそれもあります。別居を決断する前に、可能な範囲で生活費や子どもの生活環境について目途をつけておくことが重要です。

(2)別居期間と「夫婦関係の破綻」の判断

裁判で離婚が認められるかどうかを判断する際には、「夫婦関係が既に破綻しているかどうか」が重要なポイントになります。その判断材料の一つが別居期間です。

別居期間が長期に及び、実質的に夫婦としての共同生活が営まれていない状況が続いている場合、夫婦関係が既に回復困難な状態にあると評価されやすくなります。ただし、「何年別居すれば必ず離婚が認められる」という画一的な基準があるわけではなく、別居に至った経緯やその後のやり取り、子どもの有無など、さまざまな事情とあわせて判断されます。

モラハラ事案では、モラハラの内容や期間に加えて、別居後も支配的な言動が続いているかどうか、生活費の支払い状況なども含めて総合的に評価されます。そのため、「別居したかどうか」「別居期間の長さ」が自動的に有利・不利を決めるわけではありません。

(3)別居を検討する際に確認しておきたい実務的なポイント

モラハラから距離を置くために別居を検討する場合、感情面だけで決めてしまうと、後から生活上の問題が噴出するおそれがあります。次のような点は、事前に整理しておくことが望ましいです。

  • 別居後の住まいの確保(自分名義で契約できるか、実家に戻るかなど)  
  • 当面の生活費の見通し(収入、貯蓄、婚姻費用の請求の必要性)  
  • 子どもがいる場合の学校・保育園への影響  
  • 別居後に相手方とどの程度連絡を取る必要があるか  

また、別居前後のやり取りは、メッセージや手紙の形で残しておくと、後に別居の経緯や双方の姿勢を説明しやすくなります。突然の別居を避けることが難しい状況もありますが、可能な範囲で経緯を整理し、記録を残しておくことが重要です。

(4)別居を優先すべき状況と、まず相談を検討すべき状況

生命や身体への危険が切迫している場合には、何よりも身の安全を優先すべきです。このような場合には、警察や支援機関への相談、緊急避難的な別居が必要になることもあります。

一方で、今すぐに家を出るかどうか迷っている段階では、別居のメリット・デメリットを整理したうえで方針を決めることが重要です。別居の時期や方法、子どもを連れて出るかどうか、婚姻費用の請求をどうするかなどは、個別の事情によって適切な対応が異なります。

どのタイミングで別居に踏み切るか、別居後の生活や手続をどのように進めるかについては、早い段階で弁護士に相談し、具体的な事情を踏まえたうえで方針を検討することをおすすめします。

モラハラ配偶者との離婚で慰謝料を請求できる

モラハラ配偶者と離婚する場合、慰謝料も請求できます。
モラハラ行為は相手に対する違法な人格攻撃で、不法行為を構成するためです。
慰謝料の金額はケースによっても異なりますが、50~300万円程度が相場となるでしょう。

以下のような事情があると、慰謝料の金額が高額になる傾向があります。

  • モラハラの内容が悪質
  • モラハラ行為が行われた期間が長い
  • 被害者がうつ病などの精神病となった
  • 被害者側に非がなく、もっぱら加害者側の身勝手でモラハラが行われた

相手が不倫したり生活費を払ってくれなかったり無断外泊を繰り返して家庭を顧みなかったりしていた事情があると、さらに慰謝料額が上がる可能性があります。

(1)慰謝料請求のタイミングと時効に注意する

モラハラを理由とする慰謝料請求には、請求できる期間の制限(時効)があります。一般的には、損害および加害者を知った時から一定期間が経過すると、原則として慰謝料請求が認められなくなる可能性があります。

モラハラの場合、「いつから損害を知ったといえるか」が問題となることがあります。長期間にわたり精神的な苦痛が蓄積していることも多く、結婚生活のどの時点を起点ととらえるかが一概には決まりません。ただし、少なくとも離婚が成立した時点や、医師の診断を受けた時点など、被害を具体的に自覚した時から時効が進行していくと評価されることが多いと考えられます。

また、離婚協議や調停の最中に慰謝料の話題を先送りにしていると、知らないうちに時効が問題となることもあります。慰謝料を求めたい場合には、「離婚できるかどうか」と「慰謝料を請求するかどうか」を切り離さず、早い段階であわせて検討しておくことが重要です。内容証明郵便の送付や調停の申し立てなど、時効に影響する手続についても考慮する必要があります。

時効の正確な起算点や、どの時点まで請求が可能かは、個別の事情によって異なります。モラハラの期間や内容、離婚の時期、診断書の有無などを踏まえて判断することになるため、慰謝料を視野に入れている場合には、できるだけ早い段階で弁護士に相談することが望ましいです。

モラハラ離婚の事例

ここでは、モラハラ配偶者との離婚を検討している方の参考として、よく相談される類型に近い事例イメージを紹介します。実際の事件では、事情や結果が大きく異なることがありますので、あくまで一つの目安とお考えください。

事例1:家計を握られたうえでの暴言が続き、別居と慰謝料を実現したケース

妻Aさんは、結婚後に退職して専業主婦となりました。夫は家計をすべて管理し、生活費を必要最低限しか渡さず、少しでも出費が増えると「お前は無駄遣いばかりだ」「稼いでいないくせに」と繰り返し責め立てていました。外出の予定を伝えると不機嫌になり、長時間の無視が続くこともありました。

Aさんは、暴言の一部を録音し、家計簿アプリや通帳の写真を残すなどして証拠を集めました。そのうえで、子どもを連れて別居し、婚姻費用の調停とあわせて離婚調停を申し立てました。調停では、録音データやメッセージの内容、Aさんの体調不良に関する診断書などをもとに、精神的な負担の大きさを説明しました。

最終的に、離婚とともに一定額の慰謝料の支払い、子どもの親権・監護者をAさんとすること、養育費の支払いなどで合意が成立しました。Aさんは、「すぐに裁判になるのではないか」と不安を抱えていましたが、証拠の内容や今後の生活設計を整理したうえで、調停での解決に至りました。

事例2:子どもを巻き込んだモラハラが問題となり、親権と面会交流の内容を調整したケース

夫Bさんは、妻から日常的に収入や性格を否定される言動が続いていました。さらに、妻は子どもの前で「お父さんは頼りにならない」「お父さんみたいになってはいけない」と繰り返し話し、子どもも次第にBさんを避けるようになっていきました。

Bさんは、子どもとの関係が悪化していくことに危機感を覚え、日々のメモや学校の先生とのやり取りを残しながら、カウンセリングや弁護士相談を利用しました。そのうえで、別居と同時に調停を申し立て、親権と面会交流の在り方について話し合うことになりました。

調停では、子どもの現状やこれまでの養育状況、妻の言動が子どもに与えている影響などが慎重に検討されました。その結果、親権者は妻としつつも、面会交流については第三者機関を利用した間接交流から始めることとし、子どもの様子を見ながら内容を見直す取り決めがなされました。Bさんは、すぐに全面的な解決になったわけではないものの、「子どもの状況を踏まえた現実的な一歩」から関係を再構築していくことになりました。

事例3:すぐに離婚せず、準備期間を置いてから手続に進むケース

妻Cさんは、夫からの長年のモラハラに悩んでいましたが、すぐに離婚に踏み切ることには不安がありました。収入は夫に比べて少なく、子どもがまだ小さいこともあり、「離婚後の生活が成り立つのか」「子どもの学校や生活環境をどう守るか」に踏ん切りがつかない状況でした。

Cさんは、まず弁護士に相談し、モラハラの内容や証拠の有無、今後必要となる手続きの流れについて説明を受けました。その後、一定期間をかけて、家計の状況を把握し、通帳や保険の書類を整理し、実家や勤務先とも相談しながら、別居後の生活の見通しを立てていきました。

準備が整った段階で別居を行い、婚姻費用と離婚について調停を申し立てました。調停では、これまでに整理してきた証拠や生活設計をもとに、財産分与や養育費、親権などについて具体的な条件を詰めていきました。時間はかかったものの、Cさんは「準備期間を設けたことで、感情だけでなく生活面も踏まえた判断ができた」と感じています。

これらの事例イメージからも分かるとおり、モラハラ配偶者との離婚といっても、事情や進め方は人それぞれです。どのような選択肢が取り得るかは、モラハラの態様や証拠の状況、子どもの有無、収入・財産、支援してくれる家族や職場の有無などによって異なります。自分のケースでどのような進め方が現実的かを知るためにも、早めに専門家に相談して方針を検討することが有用です。

モラハラ配偶者との離婚で決めておくべき主な条件

モラハラ配偶者との離婚では、「離婚できるかどうか」に意識が向きがちですが、実際には離婚に伴う条件をどこまで詰めておくかが、その後の生活に大きく影響します。ここでは、通常の離婚と同様に、モラハラ事案でも整理しておく必要がある主な項目を確認します。

(1)財産分与

財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して形成した財産を、離婚時に分け合う制度です。名義がどちらであるかにかかわらず、原則として夫婦の共有財産として扱われます。預貯金、不動産、生命保険の解約返戻金、退職金(一部)などが典型例です。

モラハラがあったからといって、財産分与の割合が大きく変わるとは限りません。一般には、専業主婦(主夫)を含めて、2分の1ずつとする考え方が採用されることが多いです。そのため、モラハラの被害を受けている側であっても、「相手名義だから何ももらえない」と早合点せず、全体の財産状況を把握したうえで適切な分与を求めることが重要です。

(2)婚姻費用と養育費

別居中の生活費については、「婚姻費用(婚姻費用分担金)」という枠組みで請求を検討します。夫婦には、婚姻中、互いの生活を維持する義務があるため、収入が多い側が少ない側に一定額を負担することになります。モラハラがあった場合でも、基本的には収入差など客観的な事情に基づいて算定されます。

離婚後、未成年の子どもを育てる側は、相手方に養育費を請求することができます。養育費も、双方の収入や子どもの人数・年齢などを基に算定するのが一般的です。モラハラがあったからといって、当然に養育費が免除されるわけではありませんし、反対に極端に高額になるわけでもありません。いずれも、家庭裁判所の算定表などを踏まえつつ、個別事情を加味して決めていくことになります。

(3)親権・監護者

親権とは、子どもの身上監護や財産管理などを行う包括的な権限です。一方で、「監護者」は実際に子どもと同居し、日常生活の世話をする親を指します。離婚時には、どちらの親が親権者・監護者となるかを決める必要があります。

モラハラの有無は、親権や監護者の判断にも一定の影響を与え得ます。特に、子どもに対するモラハラが認められる場合や、子どもが強いおそれを抱いている場合には、その親のもとで生活を続けることが子どもの利益に反すると評価されることがあります。ただし、親権の判断は、これまでの養育状況や今後の生活環境、子どもの意思など多くの事情を総合して行われるため、「モラハラがあるから必ず親権が取れない」といった単純な結論にはなりません。

(4)面会交流

離婚後に子どもと同居していない親が、子どもと会ったり連絡を取ったりすることを面会交流といいます。原則として、子どもにとって利益がある限り、面会交流は行われる方向で検討されます。

もっとも、モラハラ事案では、面会の場で一方の親を悪く言い続けたり、子どもに心理的な圧力をかけたりするおそれがある場合があります。そのような懸念がある場合には、面会の頻度や時間、場所、第三者の関与の有無などを細かく取り決めておくことが重要です。必要に応じて、手紙やオンライン通話など間接的な交流方法を検討することもあります。

このように、モラハラを理由に離婚を考える場合でも、財産や子どもに関する基本的な条件は、通常の離婚と同様に整理しておく必要があります。そのうえで、モラハラの態様や子どもの状況など、事案固有の事情をどのように反映させるかを検討していくことになります。

子どもへのモラハラと親権・面会交流への影響

モラハラの矛先が配偶者だけでなく子どもにも向かっている場合や、子どもを巻き込む形で行われている場合があります。たとえば、片方の親の悪口を子どもに繰り返し吹き込んだり、子どもを味方につけるために精神的圧力をかけたりするケースです。このような言動は、子どもの健全な成長に悪影響を与えるおそれがあり、離婚や親権の判断にも関係してきます。

(1)子どもへのモラハラも離婚理由として評価され得る

子どもに対する精神的虐待も、夫婦関係の破綻を示す事情の一つとして評価されます。たとえば、次のような言動です。

  • 子どもに対する人格否定的な発言や無視を繰り返す  
  • 片方の親を過度に批判し、「お母さんはダメな人だ」などと刷り込む  
  • 子どもを自分の味方にさせるために、もう一方の親を貶める言動を続ける  

このような態様が継続している場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかどうかを判断する際の重要な要素となります。特に、子どもの精神的な不調(不眠、腹痛、不登校など)が生じている場合には、その経過を丁寧に整理しておく必要があります。

(2)親権・監護者の判断とモラハラの関係

親権者や監護者(実際に子どもと生活する親)を誰にするかは、「どちらの親のもとで子どもが安定した生活を送れるか」という観点から判断されます。その際には、経済力だけでなく、養育環境や子どもへの接し方も考慮されます。

子どもへのモラハラが認められる場合、その親のもとで生活を続けることが子どもの利益に反すると評価される可能性があります。たとえば、次のような事情があると、親権判断に影響し得ます。

  • 子どもに対する暴言や威圧的な態度が日常的に記録されている  
  • 子どもがその親を強くおそれており、一緒に暮らしたくないと継続的に述べている  
  • モラハラにより子どもの心理面に明らかな影響が出ている  

もっとも、親権の判断は個別事情の積み重ねで行われるため、「モラハラがあるから必ず親権が取れない」「モラハラ被害を受けた側が必ず親権を取れる」といった一律の結論になるわけではありません。子どもの生活実態や希望、これまでの主な監護状況なども含めて総合的に検討されます。

(3)別居時に子どもを連れて出るかどうかの検討

モラハラから子どもを守るために、別居の際に子どもを連れて家を出るかどうかは、多くの方が悩まれる点です。一般に、別居開始後にどちらの親が子どもと安定して生活しているかは、その後の監護者・親権判断に一定の影響を与えます。

もっとも、無理に子どもを連れ出そうとして激しい争いになれば、かえって子どもに負担をかけることになりかねません。また、学校や保育園をどうするか、相手方との連絡・引き渡しの調整をどう進めるかなど、実務上の課題も多くあります。

  • 子どもの年齢や性格  
  • 現在の通学環境  
  • 別居先での生活基盤の見通し  

といった事情を踏まえたうえで、どのタイミングで別居するのか、子どもをどのように連れて行くのかを検討する必要があります。この点も、事前に弁護士と方針を確認しておくと、判断がしやすくなります。

(4)面会交流における配慮事項

離婚後に親権を持たない親と子どもが会うことを「面会交流」といいます。原則として、子どもにとって利益がある限り、面会交流は認められる方向で検討されますが、モラハラ事案では配慮が必要な場合があります。

たとえば、面会時に一方の親を悪く言い続けたり、子どもに心理的な圧力をかけたりするおそれがある場合には、次のような工夫が考えられます。

  • 最初は短時間・低頻度の面会から始める  
  • 面会の場所を公的機関や第三者が同席する場にする  
  • 手紙やオンライン通話など、間接的な交流方法を検討する  

子どもの様子を観察しながら、内容や頻度を調整することが重要です。モラハラの状況によっては、一時的に面会交流を見合わせるべきかどうかが問題となることもあります。その判断は、子どもの年齢や反応、専門家の意見なども踏まえて慎重に行う必要があります。

相手が離婚を拒否する場合

モラハラ配偶者に離婚を請求しても、拒否されるケースが少なくありません。
「お前は何を言っているんだ」とバカにされて相手にしてもらえなかったり、怒り出して説教をされたりする事例もよくあります。

相手が離婚を拒否する場合、いったん別居するようおすすめします。家を出れば相手にもこちらの真剣さが伝わりますし、生活が別々になれば相手も「離婚」を意識するようになるものです。

相手が一家の大黒柱の場合、別居中の生活費(婚姻費用)を請求できます。相手が払わない場合、家庭裁判所で婚姻費用分担調停を申し立てましょう。相手がどうしても支払いに応じない場合、「審判」になって裁判所から相手へ支払い命令を出してもらえます。
別居しても生活を維持できる、我慢し続ける必要はありません。

モラハラで離婚を進める手順

モラハラ配偶者と離婚する場合には、以下の手順で進めましょう。

STEP1相手と話し合う

まずは相手と話し合い、協議離婚を目指すのが一般的です。
離婚協議の際には、財産分与や親権、養育費などの離婚条件についても取り決めましょう。
合意ができたら「離婚協議書」を作成し、公正証書にするようおすすめします。
公正証書があれば、離婚後に相手が養育費や財産分与、慰謝料などの支払いをしてくれないときに給料や預貯金を差し押さえて回収できるからです。

ただし相手がモラハラ気質の場合、そもそも離婚に応じてもらえないケースも多々あります。離婚には応じるとしても「慰謝料は払わない」「財産分与はしない」「親権も譲らないし養育費も払わない」などと主張し始める人が多く、協議離婚が難航する傾向もみられます。

STEP2別居する

モラハラ配偶者との離婚協議がうまくいかない場合、別居しましょう。
相手が別居後の生活費を払ってくれないときには、家庭裁判所で婚姻費用分担調停を申し立てるべきです。
次のステップである離婚調停と一緒に婚姻費用調停を申し立てれば、離婚問題と婚姻費用の問題を同時に解決できます。

STEP3離婚調停を申し立てる

別居したら、家庭裁判所で離婚調停を申し立てましょう。
調停では家庭裁判所の調停委員が間に入って話を進めてくれるので、相手と直接顔を合わせる必要がありません。調停委員からも相手を説得してくれる可能性がありますし、離婚条件についても調停案を提示してもらえるケースがよくあります。

ただし調停は話し合って合意しなければ成立しないので、相手がどうしても離婚に応じない場合や離婚条件で合意できない場合、調停は不成立になります。

STEP4離婚訴訟を提起する

調停も不成立になった場合には、家庭裁判所で離婚訴訟を提起しましょう。
モラハラは法律上の離婚原因になるので、相手のモラハラ行為を証明できれば裁判所が離婚判決を出してくれます。判決では、慰謝料や財産分与、親権や養育費などの離婚条件も決めてもらえます。

ただし訴訟で離婚や慰謝料を認めてもらうには、モラハラの証拠を提出しなければなりません。証拠がないことは裁判で認められないので、事前にしっかり証拠集めをしておく必要があります。

モラハラの証拠

モラハラは身体的DVとは異なり精神的な虐待なので、ケガなどの形に残りにくく証拠を集めにくい特徴があります。以下のようなものを集めましょう。

  • 相手が怒鳴っているところや暴れている場面を録音録画したもの
  • 相手とのLINEやメール、メッセージのやり取りの記録
  • 相手から渡された日のスケジュール表などの書面、メモ
  • 相手からつけるように言われた異常に細かい家計簿のひな形
  • モラハラ言動について詳細に記載した日記
  • うつ病などの診断書
  • モラハラについて公的機関に相談した際の記録
  • モラハラについて相談した友人や家族とのメールやLINE、メッセージ
  • 相手が暴れて壊した物の写真

モラハラ加害者と離婚する際の注意点

(1)無茶な要求をされるケースが多い

モラハラ配偶者は相手に対する共感力に欠けるため、自分本位で行動する人が多数です。
離婚条件を話し合うときにも、一方的で無茶な条件を突きつけてくるケースが少なくありません。

  • 財産分与は一切行わない
  • 親権は譲らない
  • 親権を渡すとしても養育費を払わない
  • 離婚届は書いてやるから、1人で何も持たずに出ていけ

上記のような条件を突きつけられて納得できなければ、受け入れる必要はありません。弁護士に代理交渉を依頼し、正当な条件での離婚を目指しましょう。

(2)1対1の交渉では不利になりやすい

モラハラが行われている夫婦間では「加害者が強く被害者が弱い図式」ができあがってしまっているケースが多数です。自分たちだけで1対1で話し合うと、どうしても相手方優位で交渉が進んでしまうでしょう。
被害者が自分の権利を実現するため弁護士の力を頼ってください。弁護士を代理人に立てれば法的な知識や交渉スキルを活かして相手以上に強い立場で渡り合うことも可能ですし、相手が強硬な場合には調停や訴訟に持ち込めます。

モラハラ配偶者との離婚でよくある質問

モラハラ配偶者との離婚を考える方からは、共通する不安や疑問が多く寄せられます。ここでは、その中でも特に相談の多いテーマを取り上げます。

 Q1. モラハラ相手と顔を合わせずに離婚を進めることはできますか?

可能な場合があります。相手と直接やり取りをすることに強い不安があるときは、弁護士が代理人として交渉や書面のやり取りを行うことで、本人同士が対面や電話で話す場面を減らすことができます。

また、家庭裁判所の調停手続では、当事者同士が別々の待合室で待機し、調停委員を介して交互に話を聞く運用が一般的です。同じ部屋で長時間向き合って話さなければならないわけではありません。事案によっては、裁判所に事情を説明し、待合場所や出入りの時間帯への配慮を求めることもあります。

Q2. 一方的に別居すると自分が不利になりますか?

モラハラから距離を置くための別居は、必ずしも不利に評価されるものではありません。むしろ、心身の安全を確保するためにやむを得ない対応と受け止められることもあります。

もっとも、何の準備もなく突然別居すると、生活費の問題や子どもの学校の問題が後から顕在化することがあります。また、別居の状況や経緯によっては、「子どもの生活環境にどのような影響が出ているか」が親権などの判断材料となります。別居を検討する段階で、生活の見通しや子どもの環境について整理し、可能であれば事前に弁護士に相談しておくことが望ましいです。

Q3. 子どもへのモラハラも離婚理由になりますか?

子どもへの精神的虐待も、離婚理由として考慮され得ます。たとえば、子どもの人格を否定する言動が続いている場合や、一方の親を過度に悪く言って子どもに刷り込むような態度は、子どもの健全な成長に悪影響を与えるおそれがあります。

このような言動が継続している場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかどうかを判断する際の重要な事情となります。子どもの様子(おびえ、体調不良、不登校など)や、いつ頃からどのような言動が続いているのかを記録し、必要に応じて医療機関や学校、相談機関の支援も得ながら対応することが大切です。

Q4. 姑や義父母からのモラハラも離婚の理由になりますか?

加害者が配偶者本人だけでなく、姑や義父母など親族である場合もあります。このようなケースでは、配偶者が親族の言動を止めようとしない、あるいは一緒になって被害者を責め続けているといった事情が問題になります。

親族からのモラハラそれ自体に加え、配偶者がそれを容認し、夫婦として協力関係を築けていない事情が認められると、夫婦関係の破綻を示す要素として評価されることがあります。誰がどのような場面でどのような言動をしていたのかを整理し、可能な範囲で記録を残しておくことが重要です。

Q5. 離婚後もモラハラが続く場合はどうすればよいですか?

離婚後も、執拗な連絡や嫌がらせが続くことがあります。内容によっては、ストーカー規制法や軽犯罪法、名誉毀損などの問題となる場合もあり、警察や公的機関への相談を検討すべき場面です。

一方で、子どもがいる場合には、親権を持たない親との面会交流に関する連絡も一定程度必要になります。そのため、「面会交流に必要な連絡」と「不必要な嫌がらせ的連絡」とを区別し、連絡手段や回数を整理しておくことが大切です。内容によっては、弁護士を通じた対応や、調停・保全命令などの法的手続を検討することもあります。

泣き寝入りせず弁護士へご相談ください

モラハラ被害を受けている方は無力感が強く「1人では生きていけない」「離婚なんてできない」「自分さえ我慢していればいい」と思い込む傾向もあります。しかしそれは相手による洗脳の結果であり、真実ではありません。
抱え込んだ問題を人に話せば「本当の自分の気持ち」が見えてくる方がたくさんおられます。DUONでは、モラハラ被害を受けていた方が離婚して立派に自立しているケースをたくさん取り扱ってまいりました。茨城でモラハラ配偶者に悩んでいる方がおられましたらお気軽にご相談ください。

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