配偶者の不貞行為(浮気・不倫)が発覚したとき、精神的な苦痛に対する「慰謝料」を請求することは、法的に認められた正当な権利です。
しかし、感情的に「許せない」という気持ちが強くても、必ずしも慰謝料を請求することが最善の選択とは限りません。場合によっては、あえて慰謝料を請求しない方が、ご自身の未来にとって良い結果をもたらすこともあります。
この記事では、慰謝料請求をしないという選択肢のメリットや、請求しない方が良いケース、そして慰謝料に代わる他の解決策について、具体的な判断基準とともに解説します。
【慰謝料請求を迷うあなたへ】請求しないという選択肢のメリット
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慰謝料を請求することは当然の権利ですが、その一方で、請求することによって生じるデメリットも存在します。あえて「請求しない」という選択をすることで、以下のようなメリットが得られる場合があります。
紛争の激化・長期化を避けられる
慰謝料請求は、時として夫婦間の対立を深刻化させ、紛争を長引かせる原因となり得ます。特に、相手も自分の言い分を主張してくるようなケースでは、泥沼の争いに発展しかねません。
請求を控えることで、こうした無用な争いを避け、より早期かつ穏やかな解決につながる可能性が高くなります。
関係修復の可能性を残せる
「もう一度やり直したい」と考えている場合、慰謝料請求の訴訟を起こすことは、夫婦関係の修復を著しく困難にする可能性があります。
訴訟は相手の感情をさらに硬化させ、かえって関係を悪化させる「火に油を注ぐ」結果になりかねません。請求を控えることで、修復への道を閉ざさずに済みます。
プライバシーを守ることができる
裁判になれば、不貞行為に至った経緯など、他人に知られたくないプライベートな事柄を法廷で詳細に話さなければならない場面が出てきます。
慰謝料請求をしないことで、このような精神的負担やプライバシーの暴露を避けることができます。
子どもの問題について冷静に話し合える
夫婦間に強い憎しみがある中では、子どもの親権、養育費、面会交流といった大切な話し合いも冷静にできなくなりがちです。
慰謝料請求を見送ることで、子どもの将来にとってより建設的な協議ができる環境が整いやすくなります。
慰謝料請求を「しない方がいい」と判断すべきケース
すべてのケースで慰謝料請求をしない方が良いとは限りませんが、以下のようなケースでは慎重な判断が求められます。
自分にも離婚の原因(有責性)がある場合
たとえば暴力やモラハラなど、自分にも婚姻関係を破綻させた原因がある場合、慰謝料の請求が認められなかったり、認められても非常に低額になる可能性があります。
無理に請求すれば、逆に相手から慰謝料を請求されるなど、紛争がより複雑になる恐れもあります。
不貞行為の前に夫婦関係がすでに破綻していた場合
長期間の別居などで、すでに夫婦関係が破綻していたと判断される場合、不貞行為による慰謝料請求は認められない可能性があります。
裁判例でも、婚姻関係の破綻後に行われた不貞行為については、不法行為が成立しないとされています。また、破綻とまでは言えなくても、夫婦仲が良好でなかった場合には、慰謝料の減額事由となり得ます。
不貞行為を証明する十分な証拠がない場合
慰謝料を請求するには、相手の不貞行為を客観的な証拠によって証明する必要があります。
メールやLINEのやり取り、写真、探偵の調査報告書などがこれにあたります。十分な証拠がないまま感情的に請求しても、相手に否定されればそれまでです。証拠が不確かなまま訴訟を起こしても、請求が認められる可能性は低いでしょう。
相手との関係修復を強く望んでいる場合
慰謝料請求、特に裁判は、夫婦間の感情的な対立を決定的にします。
もしあなたが本心から関係修復を望んでいるのであれば、慰謝料請求という手段が本当にその目的に適っているのか、慎重に考えることが必要です。
慰謝料請求をしない代わりに取るべき「別の解決策」
慰謝料請求をしないと決めた場合でも、何もせずに泣き寝入りする必要はありません。慰謝料という名目にこだわらず、別の形でご自身の納得のいく解決を目指す方法があります。
財産分与で有利な条件を求める
離婚する場合、慰謝料を請求しない代わりに、夫婦で築いた財産を分ける「財産分与」において、自分がより多く受け取る内容の合意を目指す方法があります。たとえば、慰謝料相当額を上乗せして不動産や預貯金を受け取る、といった解決です。
ただし、これはあくまで当事者間の話し合いで合意できる場合の方法です。裁判になると、財産分与は原則として「2分の1ルール」が厳格に適用されるため、このような柔軟な解決は難しくなります。
養育費やその他の離婚条件で調整する
お子さんがいる場合、養育費の金額を相場より高く設定してもらったり、大学卒業までの支払いを確約してもらったりするなど、子どものための条件を手厚くしてもらうことも考えられます。
離婚しない場合:接触禁止などの合意書を作成する
離婚せずに夫婦関係を修復することを選ぶ場合は、慰謝料を請求しない代わりに、配偶者と不貞相手との間で「今後一切接触しない」「連絡を取らない」といった約束をさせ、それを書面(合意書)にすることが有効です。
このような合意書を、法的な強制力を持つ「公正証書」として作成しておくことで、将来の約束違反に備えることもできます。
慰謝料請求の「メリット/デメリット」冷静な比較と判断基準
最終的に慰謝料を請求するかどうかを決めるためには、メリットとデメリットを冷静に比較検討することが不可欠です。
メリット
慰謝料請求のメリットは、大きく言えば「気持ちの区切り」と「相手への法的責任の明確化」という2つの側面に集約されます。
精神的苦痛が金銭によって癒される
受けた心の傷を金銭で完全に埋めることはできませんが、賠償金を得ることで一定の区切りをつけ、新たな生活へ踏み出す一助となります。
相手に法的な責任を自覚させられる
慰謝料の支払いという具体的な形で責任を取らせることで、行為の重大さを相手に認識させることができます。
デメリット
一方で、慰謝料請求には少なからず負担やリスクも伴います。
紛争の長期化・泥沼化
感情的な対立が激しくなり、解決までに多くの時間と精神力を消耗する可能性があります。
プライバシーの暴露
裁判になれば、夫婦間のプライベートな問題が公になるリスクがあります。
関係修復が絶望的になる
訴訟を経て元の円満な関係に戻ることは、極めて困難です。
費用倒れのリスク
慰謝料が認められても、予想より低額であったり、弁護士費用などのコストを差し引くと、手元にほとんど残らない可能性もあります。
弁護士費用などのコスト
請求手続きを専門家に依頼すれば、当然ながら費用が発生します。
判断基準:請求すべきかどうかのチェックリスト
慰謝料請求をするかどうかは、「怒り」や「裏切られたショック」といった感情だけで決めてしまうべきではありません。
証拠の有無や夫婦関係の状況、相手の支払能力、自分の今後の人生設計など、いくつかのポイントを冷静に確認しながら、「自分にとって本当に納得できる選択は何か」を考えていくことが重要です。
【チェックリスト】
- 不貞行為を立証できる客観的な証拠はありますか?
- 自分に離婚の原因となるような落ち度はありませんか?
- 不貞行為が発覚する前の夫婦関係が破綻していませんでしたか?
- 相手に慰謝料を支払う経済的な能力はありそうですか?
- 請求にかかる時間、費用、精神的負担に見合う結果が得られそうですか?
- 相手と離婚することを決意していますか?
ひとつでも「いいえ」と回答された場合には、一度慰謝料請求について立ち止まるべきかもしれません。
賢明な選択のために、弁護士へ相談を
慰謝料を請求するか、しないか。これは、あなたの今後の人生を左右するかもしれない非常に重要な決断です。一人で抱え込まず、法律の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士に相談することで、以下のようなサポートが受けられます。
法的な見通しがわかる
あなたのケースで慰謝料請求が認められる可能性や、認められる場合の金額の目安など、客観的な見通しを知ることができます。
個別の事情に応じた最適な解決策を提案してもらえる
一般の方の常識と法的な実務の常識は異なることが少なくありません。弁護士は、慰謝料請求以外も含めた多様な選択肢の中から、あなたの状況に最も合った解決策を一緒に考えます。
精神的な負担が軽減される
相手との交渉を弁護士に任せることで、直接顔を合わせるストレスから解放され、冷静な話し合いが期待できます。
後悔のない選択をするためにも、まずは一度、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
当事務所には、離婚・男女問題の経験豊富な弁護士がそろっております。どうぞお気軽にご相談ください。
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