家庭内別居の状態が続くと、いずれ離婚を考え始める方がたくさんおられます。
ただし家庭内別居の場合、「法定離婚理由」として認められないケースも多く、裁判をしても離婚できるとは限りません。
今回は家庭内別居と実際の別居の違い、家庭内別居で離婚できるケースや離婚の進め方について弁護士が解説します。
現在夫や妻との家庭内別居状態が継続している方や、実際の別居と家庭内別居で迷われている方はぜひ参考にしてみてください。
家庭内別居とは?別居の違いについて
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家庭内別居とは夫婦が不仲になったときに同居を続けたまま、お互いにコミュニケーションをとらないようにすることをいいます。
夫婦仲が悪化しても、現実に別居すると負担が重くなるものです。引越し費用や二重の住居費がかかりますし、小さい子どもがいる場合には「両親揃っている方が良い」という考えもあるでしょう。
そこで実際には別居せずに極力関わりを避けて、同居を継続するのが家庭内別居です。
(1)典型的な家庭内別居の特徴
家庭内別居するとき、わざわざ「家庭内別居しましょう」といわないケースもよくあります。
以下のような状況が続いているなら、家庭内別居となっている可能性が高いので、チェックしてみてください。
- 夫婦が別々の部屋で過ごしておりほとんど口を利かず、寝室も別にしている
- 一緒に食事をせず同じ生活空間にいる機会がほとんどない
- 会話をしない、コミュニケーションは事務的で必要最低限のみ
- 挨拶しない、目を合わさない、お互い無視している
- 家事はそれぞれ行っており、相手の分はやらない
(2)家庭内別居のメリット・デメリット
家庭内別居は、法律上の別居とは異なり、住民票や住所を移さずに同じ住居内で生活空間や家計を事実上分ける状態を指します。この形を選ぶことで、一定のメリットがある一方で、見落とされがちなデメリットも存在します。
家庭内別居の主なメリットとしては、第一に経済的負担を抑えやすいことが挙げられます。物理的に別居する場合は、別途住居費や光熱費が必要になりますが、家庭内別居であれば住居自体は共有しているため、固定費が増えにくい傾向にあります。
第二に、周囲の目を意識せずに済むことがあります。子どもの学校や親族との関係に配慮して、表向きは従来どおりの家族像を維持したいと考える方にとっては、一時的な折衷案となる場合があります。第三に、婚姻関係を継続したまま冷却期間を置き、今後の方向性を検討する時間を確保しやすいという側面もあります。
他方で、家庭内別居には看過できないデメリットもあります。夫婦間のコミュニケーションがほとんどなくなると、相互の不満や不信感が蓄積しやすく、関係の修復がかえって困難になることがあります。
また、同じ家の中で緊張状態が続くことで、当事者だけでなく同居する子どもにも心理的負担が生じやすくなります。家庭内別居を選んだ結果、口論は減っても、家庭内の空気が常に重く、子どもが「家にいたくない」と感じるようになるケースもあります。
さらに、問題を先送りにしやすいという点も注意が必要です。名目的には婚姻関係を保ちながら、実態としては関係が完全に途絶えた状態が長期化すると、今後の意思決定のタイミングを見失い、離婚や別居に踏み出す際の負担が大きくなることがあります。
(3)家庭内別居と別居の違い
家庭内別居と現実の別居には以下のような違いがあります。
異なる家に住むかどうか
家庭内別居と別居の一番の違いは、現実に異なる家に住むかどうかです。
実際に別居すると夫婦がそれぞれ異なる家に住むので、住所は異なり顔を合わせる機会もほとんどなくなるでしょう。
家庭内別居の場合、一つ屋根の下で暮らすので完全に関わりを断つのは困難です。
経済的な生活費の違い
経済的な生活費にも違いがあります。
実際に別居すると、住居費や光熱費等が二重にかかって生活費が高額になります。
家庭内別居であれば住居費などは1世帯分で済むので、費用的には安く抑えられます。
子どもや世間体に対する影響
実際に別居すると、子どもはどちらかの親としか住めません。相手親とは会いにくくなるでしょう。家庭内別居であれば、子どもは両親との同居を継続できます。世間体としても、別居すると外目にも明らかにわかりますが、家庭内別居であれば取り繕いやすいという違いがあります。
家庭内別居が子どもに与える影響
家庭内別居は、形式上は家族が同じ家に暮らしている状態ですが、夫婦間の会話や協力がほとんどない場合、子どもは家庭内の緊張感を敏感に感じ取ります。表面的には争いが少なくても、親同士が視線を合わせない、必要最低限の言葉しか交わさないといった状況が続くと、子どもは「自分のせいで雰囲気が悪いのではないか」と受け止め、不安や罪悪感を抱えることがあります。
子どもに心理的な負担がかかっている場合、学校に行きたがらない、成績の急な低下、友人関係の変化、夜眠れないといった形で表に現れることがあります。また、親の顔色を過度にうかがうようになったり、家庭内で自分の気持ちを話さなくなったりすることもあります。家庭内別居を選択する際には、子どもの前では互いを否定するような言動を控える、子どもには夫婦間の対立と自分自身を切り離して説明するなど、子どもの安心感を保つための配慮が重要です。
夫婦間の問題が長期化すると、子どもが将来の人間関係や結婚に対して否定的なイメージを持つようになるおそれもあります。家庭内別居を続けるか、別居や離婚を検討するかを考える際には、夫婦それぞれの事情だけでなく、子どもの年齢や性格、現在の様子も総合的に踏まえて判断することが求められます。
法定離婚理由になるかどうか
裁判で離婚するには「法定離婚理由」が必要です。
実際に別居して長期間が経過すると、法定離婚理由として認められるケースが多数となっています。一方、家庭内別居が長期間続いても夫婦関係が完全に破綻したわけではないとされ、法定離婚理由としては認められない可能性が高いといえます。
家庭内別居と実際の別居では、離婚裁判で離婚が認められるかどうかにおいて、違いが生じる可能性があります。
家庭内別居で離婚できるケース・できないケース
家庭内別居で離婚できるケースとできないケースがあるので、それぞれについてみてみましょう。
(1)家庭内別居から離婚までの基本的な流れ
家庭内別居の状態から離婚を進める場合でも、手続の枠組みは通常の離婚と同じです。まずは、どのような段階を踏んで離婚が成立するのかを整理しておくことが大切です。
最初に検討するのは「協議離婚」です。協議離婚とは、夫婦が話し合いによって離婚するかどうかや、親権、養育費、財産分与、慰謝料などの条件に合意し、市区町村役場へ離婚届を提出して離婚を成立させる方法です。家庭内別居中で会話が少ない場合でも、書面やメールで意思を伝える、第三者を交えて話し合うなどの方法により合意形成を目指すことになります。
話し合いがまとまらない場合や、そもそも相手が話し合いに応じない場合には、「離婚調停」を申し立てます。離婚調停は家庭裁判所で行われ、調停委員を介して当事者双方の意見を聴きながら、合意を目指す手続です。家庭内別居で感情的な対立が強い場合でも、直接顔を合わせる場面を調整しながら進められるため、冷静に条件を検討しやすいという側面があります。
調停でも合意に至らなかった場合に初めて、「離婚訴訟(裁判離婚)」へ進みます。裁判では、民法上の法定離婚事由があるかどうかが中心的な争点となり、家庭内別居そのものは通常、離婚原因としては足りません。暴力や生活費不払い、不貞行為(不倫)などの事情があり、証拠によって裏づけられるかどうかが重要になります。家庭内別居から離婚を検討するときには、このような流れを前提に、どの段階で何を準備すべきかを意識しておく必要があります。
(2)離婚できるケース
夫婦が合意した
夫婦が話し合って離婚に合意したら離婚できます。
協議離婚や調停離婚の場合、離婚原因は問題にならずどういった理由でも離婚できるからです。
家庭内別居状態が続いていて離婚を希望しているなら、まずは相手に離婚の意思を伝えて話し合ってみましょう。
法定離婚理由がある
相手が離婚に応じない場合には、離婚訴訟を起こして裁判所に離婚を認めてもらわねばなりません。
裁判所では「法定離婚理由」がある場合にのみ離婚判決を出してもらえます。
法定離婚理由とは、民法の定める5種類の事情です。
【法定離婚原因となる事情】
- 不貞(不倫)
- 悪意の遺棄(生活費不払いや家出、同居拒否など)
- 回復しがたい精神病
- 3年以上の生死不明
- その他上記に準じるほどの婚姻関係を継続しがたい重大な事由(DV、モラハラ、長期にわたる別居状態など)
家庭内別居は実際の別居とは異なり、通常、法定離婚理由として認められません。
家庭内別居でも法定離婚理由が認められるケース
家庭内別居状態でも、以下のような事情があれば法定離婚理由が認められ、裁判で離婚できる可能性があります。
- 相手が不倫している
相手が別の異性と肉体関係をともなう不倫をしていたら、法定離婚理由である「不貞」に該当するので離婚が認められます。
- 相手から暴力やモラハラ被害を受けている
相手による暴力やモラハラを裁判で立証できれば「婚姻関係を継続し難い重大な事由」が認められるので離婚できる可能性が高くなります。
- 相手が生活費を払ってくれない、家出した
夫婦には相互に助け合う義務があるので、収入の多い側は少ない側へ生活費を払わねばなりません。それにもかかわらず生活費を払ってくれないのであれば、「悪意の遺棄」が成立して離婚が認められる可能性があります。
また夫婦には同居義務があるので、正当な理由なく家出された場合にも「悪意の遺棄」となって離婚判決を出してもらえる可能性が高くなります。
(3)家庭内別居で離婚できないケース
家庭内別居していても離婚できないのは、以下のようなケースです。
- 相手が離婚に応じず、法定離婚理由もない
- 話し合っても離婚条件について折り合いがつかず、法定離婚理由もない
相手が離婚に応じない場合や離婚条件に折り合いがつかない場合、離婚訴訟で離婚を認めてもらうしかありません。
しかし法定離婚理由がなければ判決では離婚させてもらえないので、離婚が困難となります。
家庭内別居で離婚したい場合に話し合いが難しければ、法定離婚理由があるかどうかをしっかり検討すべきといえるでしょう。
(4)家庭内別居から離婚を目指す前に準備しておきたいこと
家庭内別居の状態から離婚を目指す場合、感情的な対立が先行すると、話し合いができないまま手続だけが進み、結果として望まない条件で離婚してしまうおそれがあります。協議離婚、離婚調停、離婚訴訟のいずれの段階であっても、事前の準備がその後の見通しに大きく影響します。
第一に、希望する離婚条件を整理しておくことが重要です。
具体的には、親権をどちらが持つか、別居後の面会交流をどのような頻度・方法で行うか、養育費をいくら・いつまで支払うか、財産分与の範囲と分け方、慰謝料を請求するかどうかといった点を、一度紙に書き出しておくとよいといえます。自分にとって絶対に譲れない点と、交渉の余地がある点を分けておくことで、協議や調停の場でも冷静に判断しやすくなります。
第二に、離婚原因やこれまでの経緯を示す資料を可能な範囲で集めておきます。
暴力や暴言が問題となっている場合には、診断書、怪我の写真、音声データ、日付入りのメモなどが証拠となることがあります。生活費を支払ってもらえなかった場合には、通帳の記録や明細、やり取りしたメールやメッセージの画面などが参考になります。不貞行為が問題となる場合には、交際相手とのやり取りや宿泊の記録など、継続的な交際の存在をうかがわせる資料が重要になります。
第三に、家庭内別居中の生活費や今後の生活設計についても見直しておく必要があります。
婚姻中は、収入の高い側が他方および子どもの生活費(婚姻費用)を分担する義務がありますが、現実には十分な額が渡されていないことも少なくありません。現在、どの程度の生活費が手元に入っているか、足りているかどうかを具体的に把握しておくことは、調停や婚姻費用の請求を検討するうえでも役に立ちます。
これらの整理や証拠収集を自分だけで行うのが難しい場合には、早い段階で弁護士に相談し、どの点を重視すべきかアドバイスを受けながら準備を進めることが望ましいといえます。
家庭内別居と財産分与
家庭内別居を続けた上で離婚する場合、財産分与の基準時をいつにすべきか問題となります。財産分与の基準時とは「いつの時点で存在していた財産を基準に財産分与するか」というタイミングです。
法的に、財産分与の基準時とするのは「別居時」または「離婚時」です。
離婚するまで同居していた場合には「離婚時」、離婚前に別居した場合には「別居時」を基準とします。そのタイミングで夫婦の家計が分かれて「お互いの協力によって財産を形成する状態」ではなくなるからです。
家庭内別居の場合には実際に別居したわけでもなく家計は別々になっていません。一般的に「離婚時」を基準に財産分与すべきと判断されるケースが多いでしょう。 ただし個別事情によっては家庭内別居を開始したときを基準に財産分与すべき状況も考えられます。迷ったときには弁護士へ相談してみてください。
家庭内別居中の不倫に対する慰謝料請求
配偶者が不倫した場合には、配偶者や不倫相手に慰謝料請求できます。家庭内別居が開始した後に不倫された場合にも慰謝料請求できるのでしょうか?
一般的に、別居後に別の異性と関係を持っても慰謝料は発生しないと考えられています。別居した時点で夫婦関係が破綻し、不倫されても精神的苦痛を受けないと考えられるためです。一方、家庭内別居の場合には夫婦関係が完全に破綻したわけではないので、相手が不倫したら慰謝料請求できる可能性があります。
ただし夫婦関係が円満だったわけではないので、通常の相場よりも慰謝料が減額される可能性が高いでしょう。
なお不倫慰謝料を請求するには「配偶者と不倫相手の肉体関係を証明できる証拠」が必要です。証拠の集め方がわからない場合、弁護士までご相談ください。
家庭内別居中も生活費を請求できる
家庭内別居中すると、相手が生活費を払ってくれなくなるケースも多々あります。夫婦にはお互いに扶養義務があるので、相手が払わないなら請求して払わせる権利が認められます。
話し合いをしても相手が支払いに応じない場合、家庭裁判所で婚姻費用分担調停を申し立てましょう。同居したままでも調停を利用できます。
相手が婚姻費用の支払いを拒否する場合、手続きが「審判」に移行して、裁判所から婚姻費用の支払い命令を出してもらえます。相手が審判に従わなければ、給料や預貯金を差し押さえて生活費を確保できるので、最終的には支払いを受けられるケースがほとんどです。
ただし未払いの婚姻費用は「請求したときからの分」しか払ってもらえません。調停の場合、「調停申立時以降」の分しか払ってもらえないケースが多数です。
家庭内別居状態で相手から生活費を払ってもらえなくなったら早めに婚姻費用分担調停を申し立てましょう。
家庭内別居を続けても離婚できない可能性がある
実際に別居すると、別居状態が5年も続けば法定離婚理由が認められ、裁判で離婚できるケースが多数です。一方、家庭内別居の場合、長期に及んでも法定離婚理由にならず、離婚できない可能性があります。
将来の離婚を望んでいて相手が離婚を拒否する可能性が高いなら、家庭内別居よりも実際の別居を選択する方が良いでしょう。
離婚や別居についてのお悩みはDUONの弁護士へご相談ください
離婚や別居を有利に進めるには法的な知識が必要です。
家庭内別居が良いのか実際に別居すべきかについても、弁護士にアドバイスを受けておくと後々有利な状況を作りやすいでしょう。DUONでは離婚問題を抱える方へのサポートに力を入れています。茨城県で離婚や別居にお悩みの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。
お一人で判断せずに、離婚に強い弁護士に相談してみませんか?
養育費・婚姻費用・財産分与などのお悩みに、経験豊富な弁護士が対応します。
対面/Zoomどちらも可能。
※ご相談内容により一部有料となる場合があります。









