離婚を有利に進めるための証拠の集め方とは?浮気・モラハラ・財産トラブルをケース別に解説

離婚はほとんどの方にとって「初めての経験」です。

「離婚届を提出する」とか「子どもの親権を決める」といったことは知っていても、肝心の「離婚するには何が必要か」をご存じなく、そのために実際の話し合いの際に揉めて長期化するケースが少なくありません。

有利な条件で離婚するのに最も重要なのは「証拠」です。証拠により、離婚に至るまでのスピードや支払われる慰謝料などの条件が大きく変わってきます。離婚を切り出す前から準備しておきましょう。

この記事では不倫やDV、財産分与などのパターン別に、弁護士が証拠集めの方法を解説します。

証拠は訴訟以外でも必要なの?

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「訴訟に進まない限りは、証拠は必要ないんじゃないか?」と考える方が意外といらっしゃるのですが、協議離婚でも有利に進めるためには証拠は必須です。

協議離婚は、相反する立場の人間が双方の主張を通そうとする場でもあるので、そのまますんなり進むケースは少数です。

あなたにより有利に動くようにするにはより多くの、確実な証拠が必要となるのです。

たとえば証拠がなかったら、相手の不倫も証明できません。相手が否定したらそれ以上追及できなくなり、慰謝料も払ってもらえないでしょう。

財産分与を請求したい場合でも、相手の預貯金通帳などの証拠がなかったら「そんな財産はない」といわれてしまうリスクが高まります。

有利に離婚を進めるには証拠集めが極めて重要です。

事実を証明するには証拠が必要

たとえば、あなたがDVを受けていて身体に「あざ」ができたとします。当然、あなたは「これは相手に殴られた時にできたあざ」だということを知っています。

しかし、それはあなたが知っているだけで「あざの写真」がなければ第三者へ主張するのは困難でしょう。いずれ傷が完治したら、DVを証明できなくなってしまいます。証拠がなくても相手が認めれば問題ありませんが、通常は殴った側は正直に「自分が殴りました」とは認めないものです。

また「あざの原因」も他の人にはわかりません。証拠を集める際には「因果関係」も意識する必要があります。たとえ事実であっても「客観的な証拠」がなければ認められない可能性が高いので、証拠が重要となるのです。

離婚慰謝料と証拠の関係

離婚慰謝料(離婚により生じた精神的苦痛を金銭で補う損害賠償)は、単に「つらかった」という気持ちだけでは認められません。民法上の離婚原因に当たる事実があり、その事実を裏づける客観的な証拠がそろっているかどうかが重要になります。証拠の内容・量によって、慰謝料を請求できるかどうか、請求できるとしてどの程度の金額が見込まれるかが変わります。

(1)慰謝料が認められやすいケース・認められにくいケース

離婚慰謝料が認められやすいのは、次のように「相手方に明確な有責性(法的な責任)」がある場合です。

  • 配偶者の不貞行為(不倫)
  • 配偶者からの継続的なDV(身体的暴力)やモラハラ(精神的暴力)
  • 生活費を全く渡さない、家を出て戻らないなどの悪意の遺棄

一方で、「性格の不一致」「価値観の相違」のように、どちらが悪いともいえない事情のみの場合は、慰謝料が認められにくい傾向があります。このようなケースでは、どちらか一方だけに責任があることを示す事情や、別居期間の長さなど、追加の事情を丁寧に積み上げていく必要があります。

どの類型に当たるかは「主張の仕方しだい」と考える方もいますが、実際には、日記・診断書・メールやLINEの記録・公的機関への相談履歴など、具体的な証拠によって裏づけられているかどうかが判断の大きな材料になります。

(2)慰謝料の金額はどのように決まるか

離婚慰謝料の金額は、法律や判決で一律に決まっているものではなく、個々の事情を総合して判断されます。代表的な考慮要素としては、次のような点があります。

  • 不貞行為やDVの内容・回数・期間
  • 婚姻期間の長さ
  • 子どもの有無や年齢
  • 別居の有無・期間
  • 当事者双方の収入や資力
  • 反省の有無、謝罪や解決への姿勢

同じ「不倫」という名称でも、数回の交際なのか、長期間の二重生活なのかで評価は変わります。DVについても、一度限りの暴力なのか、何年も繰り返されているのかによって、慰謝料額の水準は変動します。こうした事情を具体的に示す写真・録音データ・診断書・領収書等の証拠があるかどうかが、実際に支払われる金額に大きく影響します。

(3)慰謝料請求の時効と早期の証拠保全の必要性

離婚慰謝料には時効があります。一般的には、離婚の日から3年が経過すると、慰謝料を請求する権利が時効により消滅するおそれがあります。また、不貞行為などの「損害および加害者を知った時」から起算される場合もあり、タイミングを誤ると請求できなくなる危険があります。

さらに、時間の経過とともに、メールやSNSの履歴が削除される、スマートフォンが買い替えられる、診断書を取りにくくなるなど、証拠自体が失われてしまうことも少なくありません。「離婚を決めてから集めればよい」と考えていると、必要な証拠が残っていないという事態になりかねません。

ご自身のケースで慰謝料請求が可能かどうか、可能な場合にどの程度の水準が見込まれるのかを検討するためには、早い段階で証拠を整理し、法律の専門家と一緒に見通しを立てることが重要です。そのうえで、どの証拠を優先的に残すべきか、今後どのように証拠を確保していくかを検討していくことになります。

証拠として集めるべきものをパターン別に紹介

では、何を証拠として取っておけばいいのでしょうか?パターン別に集めるべき証拠をご紹介します。

(1)不倫の証拠

相手が不倫している場合には、以下のような証拠を集めましょう。

①写真や動画

写真や動画は証拠として確実性の高いものです。たとえば性行為をしているときの画像が残っていれば、相手も言い逃れはできないでしょう。具体的な例としては、配偶者が不倫相手とホテルに入るシーンを撮った写真などがあります。

②音声(録音)

ICレコーダーなどによって録音する方法です。たとえば相手を問い詰めて不倫を認めさせた音声を録音しておけば不倫の証拠となるでしょう。音声は写真や動画よりも「録っていることがバレにくい」ので利用しやすいと考えられます。

③レシート・領収書

例えば相手に不貞行為があり、不倫相手との食事などのレシートがあった場合はこれも証拠となります。ただし、単体では「不貞」の立証は困難となるでしょう。不貞というには「肉体関係」の証明が必要だからです。デートしているだけでは肉体関係があるとは言い切れません。日記や写真などと合わせて立証する必要があります。

④携帯のメール、LINE、発着信記録

不倫している人は、不倫相手と頻繁にメールやLINEを送り合ったりSNSでやり取りしたりしているものです。
そういった画面を撮影して証拠化しましょう。頻繁な発着信記録も間接的な不倫の証拠になります。

⑤探偵に浮気調査を依頼する前に確認したいポイント

配偶者の不貞行為について、「自分で集められる証拠には限界があるのではないか」「探偵に依頼した方がよいのではないか」と考える方も多くいます。探偵による調査は、有効な証拠が得られれば、不貞行為の存在や継続性を裏づける強い資料になり得ますが、一方で費用やリスクもあります。依頼を検討する前に、いくつかの点を整理しておくことが重要です。

まず、探偵への依頼が向いているのは、配偶者と不倫相手が外で会う日時や場所のおおよその見当がついている場合です。

たとえば、決まった曜日の夜に外出している、特定のエリアでの立ち寄りが多いなど、ある程度のパターンがわかっていれば、調査日数を絞り込みやすくなります。これまでに保存してきたメールやLINE、位置情報の履歴、クレジットカード明細などを整理し、どの日時に重点を置くべきかを考えておくと、調査費用を抑えやすくなります。

次に、想定される慰謝料の水準と、探偵費用とのバランスも検討する必要があります。

不貞の内容や婚姻期間、子どもの有無などによっては、裁判所が認める慰謝料の幅に一定の限界があります。高額な調査を行っても、その費用を上回る経済的な意味が得られない場合もあります。経済的な負担、今後の生活費との関係も踏まえ、どこまで費用をかけるかを慎重に判断することが大切です。

また、探偵事務所を選ぶ際には、探偵業の届出がなされているか、契約内容が明確かどうかを確認する必要があります。

調査の範囲・方法・日数、料金体系(着手金・成功報酬・追加費用の有無)などが契約書面で具体的に示されていない場合、後のトラブルにつながるおそれがあります。事前の説明に不明瞭な点がある、強引に契約を迫るといった対応が見られる事務所には注意が必要です。

(2)DVやモラハラの証拠

①写真、動画

DVを受けている人がパソコンのカメラで撮影した動画などがあれば、証拠に使えます。

②録音

DVを受けているシーンを録音しておけば、暴力の証拠となるでしょう。相手が暴れたり怒鳴ったりしているところも録音しておきましょう。

③日記・メモ

日記に詳細に暴力や暴言の記録をつけていれば、DV・モラハラの証拠となります。日記をつける習慣がない方は「その日の出来事」を手帳などにメモ書きしましょう。簡単であっても積み重ねていけばDV、モラハラの証拠に使える可能性があります。

④医師の診断書

医師の診断書は個人が捏造できないので信用性が高く、DVの重要な証拠となります。もし相手の暴力によって怪我をした場合、軽傷でも病院に行って診断書を作成してもらいましょう。

また医師には「階段で転んだ」などと虚偽を述べず、「夫に殴られた」と正確な事情を話しましょう。恥ずかしいと思う必要はありません。

なお診断書を作成すると料金がかかりますが、相手には診断書作成料を超える金額の慰謝料を請求できます。躊躇せずに病院にかかって診断書を書いてもらってください。

(3)公的機関への相談記録や保護命令も重要な証拠になる

DV(家庭内暴力)やモラハラ(精神的虐待)の事案では、写真や録音、日記のほかに、公的機関に残る記録が重要な証拠になります。第三者機関が関与した事実があると、裁判所が「被害の訴えに一定の信頼性がある」と評価しやすくなります。

代表的なものとして、市区町村のDV相談窓口や配偶者暴力相談支援センター、警察署への相談記録が挙げられます。

相談日や相談内容、対応した担当者などが記録されている場合、被害が継続していたことや、危険性の高さを示す資料として用いることができます。相談した際に交付された書類や、相談を裏づけるメモがあれば保管しておくことが望ましいです。

暴力の程度が強く、一時保護や接近禁止が必要と判断された場合には、裁判所に保護命令を申し立てることがあります。

保護命令が出されていれば、その決定書は「裁判所が危険性を認めた」という意味を持つため、離婚や慰謝料請求の場面で強い証拠になります。保護命令までは至らなくとも、警察への通報歴がある場合は、その記録が残っていないかを弁護士を通じて確認することも検討されます。

これらの公的機関の記録は、被害を受けている側にとって心理的な負担が大きく、相談に踏み切るまでに時間がかかることも少なくありません。

しかし、早い段階で相談しておくことで、「いつからどのような被害が続いてきたのか」を後から具体的に示しやすくなります。どの機関に相談すべきか、保護命令の申立てまで進めるべきかは、事情に応じて判断が分かれますので、弁護士と連携しながら進めることが重要です。

(4)養育費・婚姻費用の証拠(収入や生活費に関する資料)

養育費や婚姻費用(別居中の生活費)を請求する場面では、「双方の収入や生活状況がどの程度か」を示す資料が重要になります。

金額の算定にあたっては、裁判所が公表している算定表を参考にすることが多く、この算定表を適切に使うためにも、収入や家族構成を裏づける客観的な資料が欠かせません。

まず、収入に関する資料としては、給与所得者であれば源泉徴収票、直近数か月分の給与明細、賞与明細、住民税決定通知書などが代表的です。

自営業者やフリーランスの場合は、確定申告書の控え、青色申告決算書、収支内訳書、事業用口座の通帳などが重要になります。これらの資料から、年収だけでなく、収入の変動や事業規模の目安も把握されます。

次に、生活費の実態を示すための資料として、家賃や住宅ローンの支払明細、教育費や医療費の領収書、保育料や習い事の請求書、公共料金の請求書などが役立ちます。

子どもの人数や年齢、通っている学校や保育園の状況によって、必要とされる生活費の水準は変わるため、可能な範囲で具体的な支出を確認できる資料を残しておくことが望ましいです。

これらの資料は、別居や離婚の話し合いが始まった後には、相手方が積極的に開示しなくなることも少なくありません。

勤務先や収入状況を把握できるうちに、手元にある書類をコピーしておく、オンライン明細を印刷しておくなど、早めに証拠化しておくことが重要です。どの資料が特に重要になるかは事案によって異なりますが、「収入」「子どもの状況」「生活費」の三つの視点を意識して資料を揃えておくと、その後の協議や調停を進めやすくなります。

(5)財産分与に必要な証拠

財産分与を求める際には、以下のような財産資料を集めましょう。

  • 預貯金通帳、取引履歴
  • 保険証書、解約返戻金証明書
  • 不動産の全部事項証明書、固定資産評価証明書、査定書
  • 車検証、車の査定書
  • 給与明細書(財形積立などが記載されているケースがあります)
  • 退職金に関する資料

違法な方法での証拠集めは逆効果になることがある

離婚を真剣に考えていると、「多少強引でも証拠さえ取れればよいのではないか」と考えてしまうことがあります。しかし、違法な方法や行き過ぎた方法で集めた証拠は、ご自身が刑事責任や損害賠償責任を負うおそれがあります。

また、裁判所が証拠の取得方法を問題視し、かえって不利な評価につながることもあります。どこまでが許され、どこからが問題になるのかを意識しておくことが重要です。

理由1:不正アクセスや盗み見は刑事事件になるおそれがある

配偶者のスマートフォンやパソコンのロックを無断で解除して、中身を詳しく閲覧する行為は、不正アクセス禁止法違反などの犯罪として扱われるおそれがあります。パスワードを盗み見する、推測してログインする、勝手にクラウドサービスにアクセスするといった行為も同様です。

また、相手に無断で遠隔監視アプリや位置情報アプリをインストールし、行動履歴や通信履歴を収集するケースも見受けられます。このような方法は、プライバシー権の侵害として不法行為責任(損害賠償の対象)を問われる危険があります。

「浮気をしているのだから、この程度は許されるはずだ」と考えてしまう方もいますが、法律上は別問題として評価されます。違法な手段で取得した証拠によって、相手の不貞行為がある程度立証できたとしても、ご自身が別の責任を負うことになれば本末転倒です。

理由2:住居侵入・器物損壊に当たる行為も問題となる

配偶者や不倫相手の自宅・部屋・職場などに、相手の了解なく立ち入って写真を撮影する、録音機器やカメラを設置するといった行為は、住居侵入罪や建造物侵入罪に当たるおそれがあります。鍵を勝手に複製して侵入する、窓やドアをこじ開ける行為は、器物損壊罪等の問題も加わります。

さらに、録音機器やカメラを設置する際に、家具や設備を勝手に取り外したり加工したりすれば、物的損害を与えたとして損害賠償を請求される場面も想定されます。違法な侵入や設置によって得られた情報は、たとえ不貞行為を示していたとしても、裁判所が採用をためらう場合もありますし、ご自身への評価も大きく損なわれます。

理由3:違法または行き過ぎた証拠は裁判での評価が下がる可能性がある

裁判所は、証拠の内容だけでなく、その取得方法も含めて全体を評価します。相手の人格権やプライバシー権を著しく侵害してまで集めた証拠は、「夫婦間の信頼を大きく損なう行為」と判断されることがあります。その結果、慰謝料額の判断や有責性の評価に影響が出る可能性があります。

また、違法な手段で取った証拠がある場合、「この人は他にも不適切な方法を用いているのではないか」という心証を抱かせることも否定できません。証拠集めは、あくまで適法な範囲で、淡々と事実を積み上げていくことが重要です。

理由4:グレーゾーンに感じる行動は事前に弁護士に相談した方がよい

スマートフォンやパソコンの利用状況は家庭ごとに異なります。たとえば、夫婦でパスワードを共有しているケース、家族共通のパソコンを使っているケースなど、「どこまでが許容されるのか」が判断しにくい場面も多くあります。

このようなグレーな場面で独自判断をしてしまうと、後になって「許される範囲を超えていた」と評価されるおそれがあります。違法性が問題となると、離婚問題そのものとは別に、刑事・民事のトラブルが派生してしまいます。

協議段階でも弁護士に相談すべき理由

「弁護士に相談」というと「裁判(訴訟)」を意識される方がおられます。

しかし協議離婚の段階であっても証拠集めのために弁護士に相談するよう強くお勧めします。不倫やDV、財産分与の証拠は「離婚」を切り出す前に準備しておくべきだからです。

離婚協議が始まると、相手も警戒して証拠を隠してしまう可能性が高まります。そうなったら思うように証拠を集めにくくなってしまうでしょう。

証拠集めに先立って「離婚で必要な証拠」や「効果的な証拠の残し方」について、弁護士などの法律の専門家からアドバイスを受けて確認しておく必要があります。自己判断で証拠集めをしても、有効な証拠にならないケースが少なくありません。

「弁護士=裁判」というイメージをお持ちの方もいらっしゃいますが、むしろ訴訟に至らないように様々な助言をするのが弁護士の重要な責務・役割です。

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